捨て身神官の恋愛事情 3
「それで、何故私達まで呼び出されたのか理由を聞いても?」
神官らしく慈愛に満ちた穏やかな微笑みを浮かべながら、俺は尊大に腕組みをして踏ん反り返った。
目の前には燃えるような赤髪のイケメンが酷く困惑したような顔で、俺と俺の隣の人物を見比べていた。
「マリオン……その前に何故アンジ」
「おおっと、何故おれ……私達が呼び出されたのか理由を話すのが先ですよ」
第2王子だか何だか知らんが、不敬だと言われても構わない勢いで俺はデズモンドの言葉を遮る。
王城に呼び出されたのはチェスターとカメーリアだけだった筈だが、後から俺まで王城にあるデズモンドの部屋に呼び出された。
協力して欲しいことがある、と。
その話を聞いたアンジェラたんが私も行きたいなあ、とポツリと呟いたのだ。
天使の希望ならば、アンジェラたんを王城に連れて行かないという選択肢なんて、地平線の彼方へぶっ飛ばす。
……という事で、現在俺の隣には天使が降臨している訳だ。
アンジェラたんに捨てられた男とアンジェラたんを捨てた男の邂逅に、チェスターとカメーリアは居心地悪そうに縮こまっていた。
「……あ、ああ。実はだな、王都内で連続婦女暴行事件が起きているのだ。そして必ず金を盗られているらしい。ただの強盗か、婦女を狙った強姦魔かどうか……その辺りは判別がつかないが、手口が同じだから同一人物ではないかというのが騎士団の見立てらしい。ただ、夜の犯行という事もあって目撃証言が20代後半から30代前半の旅人風の男という情報しかなく、捜査に行き詰まっていてな……。それでチェスターとカメーリアに協力を頼んだら、マリオンが適任だと口を揃えて言ったんだ……」
チラチラとアンジェラたんの方を気にしながら、事の経緯を語るデズモンド。
そして、この下半身勇者は何故かアンジェラたんの方を向いて頭を下げた。
「アンジェラ。少しの間だけマリオンを貸してはもらえないだろうか?」
いや、俺の意思はどうしたよ?
俺別に下半身勇者と知らない奴らの平和の為に働くなんて、一言も言ってないぞ。
「おい、デズモン……」
「マリオン兄様」
「どうしましたか?アンジェラ」
俺のドスの効いた声に可憐な声が重なる。
俺は即座に声の主であるアンジェラたんに、笑顔を向けた。
「その犯人、女の人達に酷い事してきているのに、未だに平気な顔をして今も王都で過ごしてるのよ。私許せないわ……。それに、私も襲われてしまうかと思うと……夜も眠れないわ」
「よし、おれも……じゃなかった私も協力しますよ!」
そうだよねっ。見ず知らずだけど女の人達に乱暴しといてのうのうと息吸ってる犯人なんて許せないよねっ。そして、アンジェラたんの平和を乱す者は、俺が絶対排除する。
わぁ、相変わらずちょろ過ぎ……、なんて言葉がチェスター辺りから聞こえてきた気がしたが、きっと本当に気のせいだろう。
「マリオン、アンジェラ……!すまない、助かるよ。俺に出来る礼だったら、何でもする!」
曇り空が一気に晴れ渡るように、デズモンドは顔を明るくする。
何でも……か。そうだな……、下半身不能にするとかどうだろう?
アンジェラたんはニッコリと、慈悲深く美しく神々しい微笑みを浮かべてデズモンドに応えた。
「デズモンド、私貴方の鼻の穴に沢山胡椒を詰め込んだ所が見たいわ」
「……え?」
「あら?何でもすると言ったでしょう?無理な範囲では無いはずよ?」
アンジェラたんの言葉にピシリと固まるデズモンド。
完全に傍観者になっていたチェスターは、ボソリと呟いた。
「アンジェラちゃんって中々いい性格してるよね……」
俺はそれに激しく首を縦に振って同意した。
「だよな!!アンジェラたんは本当に天使……いや、天使以上に性格良いよな!!慈悲深いし!下半身不能にするとか考えてた俺が薄汚れてたよ……」
「マリオン。それいい性格の意味が違う……」
チェスターが何か言ってたけど、俺はアンジェラたんの慈悲深さに大感激していて完全に話の内容が入ってこなかった。
アンジェラたん下半身王子に一矢報いるとか言ってたけど、仕返しがこれとか可愛すぎる……。