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プロローグ「……これ、キャンセルで」

夢のある世界を『ファンタジー』って呼ぶらしい。

それならきっと、ぼくが住むこの場所はファンタジーってやつなんだと思う。

……でも、夢だけじゃないのが現実。魔法や未知の場所、そんなわくわくするような物があったって、それは変わらないんだ。

「………………」

そうじゃなきゃ、ぼくは今こうして、一枚の手紙を手に立ち尽くしたりなんてしてない。



*=*=*=*



ぼくが住むこの場所には、悪しき風習がある。


この世界には予言の書っていう、とんでもない代物があって、何があったかは知らないけど、これが二つに分裂したらしい。

片方は良い未来を予言した『導きの書』、もう片方は悪い未来を予言した『破滅の書』って呼ばれてる。

良い未来と悪い未来なら、良い方になって欲しいと思うのが当然だよね。

問題はこの後。それなら悪い予言を無かったことにすれば良い方になる、なんて導きの書が予言した。


……どうなるかなんて、言わなくても分かるよね?


こうして燃やされそうになった破滅の書は、どこかに逃げたんだ。それとほぼ同時だったかな、魔物が増えたのは。

……え、本が逃げるのはおかしいって?

あぁ、ごめん。破滅の書、導きの書は本じゃ無いんだ。

噂では絶世の美女だとか、美男だとか言うけど、ぼくたちみたいな普通の人間が直接会うなんてことは、万に一つだってないよ。

導きの書はどこかに引き篭もって、世界中を監視しているらしいし、破滅の書は行方不明だし。


さて、本題に戻ろっか。こうして、どこかに逃げた破滅の書を燃やす為に、導きの書が作った制度っていうのが『絶対冒険者制度』。

その内容は『人間は必ず冒険者になって、導きの書が定めた戦闘職に就かなければいけない』なんてものなんだよ?

しかも、どうやってるのかは知らないけど導きの書が監視してるから、サボっていたらすぐバレる。

必ず1ヶ月に1度は探索しなきゃいけないけど、外は魔物でいっぱい。元々腕に覚えがある傭兵やなんかはともかく、農夫やパン屋が武器を持ったところで、魔物に傷一つだって付けられるわけないよね。

でもね、その制度は抜け穴があったんだ。どこをっていう、場所が何も定められてなかったんだ。だから街の中や周辺を歩いて、そこを『探索した』ってことにすればお咎めなし。


でも、そんなの導きの書が思っていた『絶対冒険者制度』じゃないから、もう一つ増えたんだ。

それが『選ばれし者の義務制度』。

つまり、他の人たちはそのままでもいいけど、導きの書が選んだ人たちだけは破滅の書探しに専念しなきゃいけません、って義務を付けた。

兼職もダメ、冒険に関わること以外は認めません……ってね。


だから今ぼくは、目の前で尻尾を振っている犬に呆然としてた。


「あなたは選ばれし冒険者です。職業は重戦士。詳細説明を明日行いますので、冒険協会へご足労お願い致します。もし何か困ったことがあれば、トルトラがサポートしてくれます。それでは、頑張って破滅の書を見つけ出しましょう!」


……まさに今、すごく困ってるんだけど。

というより、ぼくが『重戦士』? ご冗談を。

家が営んでいた道具屋の手伝いくらいはしていたけど、店番ばかりで力仕事は父さんが全部やっていたから、ぼくはお金の計算とかばっかり。

つまり、力仕事すらろくにできない、ひょろひょろ人間だってこと。

「……でも、冗談じゃ……ない、んだね」

何だかやたらと綺麗な紙に書かれた、これまた綺麗な文字の手紙から顔を上げて、ため息をつく。この手紙が入っていた封筒には、いい匂いの赤い封蝋。

そこに捺されているのは『四枚葉の刻印』……冒険協会のものだった。

犬の首輪にはトルトラ、と彫られた板のネームプレートが揺れてるけど……こんな横暴しといて、サポートが犬?!


「はは……」

思わず乾いた笑いがこぼれた。だって仕方ない。これは仕方ない。

15歳になって、地道に家の店を手伝って貯めたお小遣いで、やっと夢を叶えようって時になんてことをしてくれるんだ。

「……これ、キャンセルで」

「くぅん?」

手紙を持ってきたトルトラに、手紙を元通り筒状に丸めたものを差し出してみるけど、首をかしげるばかりで、少しも咥えようとはしてくれなかった。

あーぁ、これまでずっと頑張ってきたのになぁ……その結果がこれって、ちょっとひど過ぎない?


握りしめた手紙がくしゃりと音を立てた。

「はぁぁ……」

ため息をついて振り返った先には、昨日完成したばかりのぼくの夢が建っていた。

小さいけどオレンジの屋根が可愛らしい、ぼくのお店。

きっと、少ないけどお客さんも来てくれて。

もしかしたら、友達だってできたかもしれないし、楽しい時間がいくつもできるはずなのに。

「どーしてこう、うまくいかないのかなぁ……」

そんなぼやきを聞くのは犬ばかり。

始まりを予感させる春に、ぼくはただただ自分の不運さを噛みしめて、笑う。


そんなぼくを近日開店予定『だった』カフェが、寂しそうに見つめ返していた。



next

こんにちは。

リコリス書いていたら、つい妄想が、想像が……。

というわけで、何かを飛び越えて、違うものを書き出しました。桂香です。


今回のはリコリスよりも更に文章が軽い感じになっています。

ドタバタと楽しくお話を書いていけたらいいなと思いつつ、思いつつ……。

行き当たりばったりの見切り発車ですが、リコリスをメイン更新で、ゆっくり進めていくつもりです。お付き合いいただける方は、のんびり楽しんでいただけたら幸いです。ではでは、読んでくださってありがとうございましたー。

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