Three sisters(三姉妹)
「ねーねー、なに作ってるの?」
「のー?」
「・・・」
左右で別れた巻髪が、ふわふわと揺れている。
「来たな、悪がき共」
「悪がきじゃないですー、とてもキュートなアルスですよーだ」
「同じくキュートなベルですよーだ」
「・・・イリー」
エミリアを踏みつけながら三人は、思い思いのポーズをとっているが、まとまりが皆無だ。
アリス、ベル、イリーの三姉妹も、屋敷で働くメイドだ。
アリスとベルは、いたずら好きの長女と次女、イリーはそんな二人に振り回される無口な末っ子。
そんな三姉妹は、少し特殊な雇用をされていた。
「エミリア、だいじょうぶ?」
三姉妹を、扉の影から眺めていた幼女が駆け寄る。
濃紺の髪、つぶらな瞳はなんの憂いもなく
輝いていた。
「大丈夫ですよ、リリム様・・・っと」
体勢を立て直すエミリア。
のしかかっていた三姉妹は、バランスを崩し転がる。
「貴女達、わかっていますよねぇ。特に、アリスさん?」
「えっと・・・いやぁ、そのぉ」
物凄い形相のエミリアは、アリスの頭を抑える。
獲物を狩る狩人と、狩られる側の兎のような構図が出来上がる。兎もといアリスは、やり過ぎたのをうやむやにしようと曖昧な笑顔を浮かべる。
「みんな、逃げろ!」
アリスの号令を受けた姉妹と、リリムは蜘蛛の子を散らす勢いで走り出した。
毎度の事なので、エミリアも追うような事はしない。その代わりに一言。
「イリーとリリム様以外おやつ抜きですよ」
その言葉はさまよいながら、虚空を駈けた。
「ったく、相変わらず嵐みてーな奴等だな」
「本当に。リリム様が感化されないか心配よ」
そうため息をつくエミリアの瞳に、リビィが茶化すように挟む。
「なんだか、そうしてると、奴等の母ちゃんみたいだな、メイド長」
「そうね、まぁ、悪くはないかも」
以外な返答だったのか、リビィはそれ以上追求してこない。
肉や、野菜を煮込んでいる寸胴鍋からはもうもうと湯気が立ち込める。そんななか、二人の間には微妙な沈黙が流れていた。
リビィは、その沈黙に耐えきれなくなったのか、重々しく口を開く。
「すまねぇ、今のは忘れてくれ。旦那と、奥様の子供なのにな、リリムは」
「気にする必要は無いわよ。確かに、マリアに似てきたときは、少し複雑な気持ちになったけれど」
リビィどんな顔をして、どんな解答をすればいいのか、答えは見つからないまま再びの沈黙が訪れていた。