A squirrel(リス)
「いやはや、男性の照れ隠しは分かりやすいものですね」
カップを取り金色にも似た紅茶を啜る直前、リンベルは曖昧な笑みと共にリビィへと矛を向ける。優雅な出で立ちの中に、ユーモアを兼ね備えている彼らしい言動だ。
「悪かった、俺が悪かったからもう何も言わないでくれ…」
テーブルに顔を突っ伏したリビィの呟きは、今にも消え入ってしまいそうなほどか弱く、か細い。その光景が視界に入ったのか、平常に戻りつつあった頬が再燃するミリツァ。彼女もまた同じく頭を垂れた。
その光景を生温かく見守るリンベル、少し遠巻きに見ているエミリアと、目を輝かせて食いつくように見るブラン。不思議な構図が出来上がっているものの、妙に落ち着きがあり、不遜な考えを起こすなんてこともなく時を刻んでいく。
「さて、お二人を茶化すのはそろそろ終わりにしましょう」
名残惜しそうに会話にピリオドを打つブラムは、バタフライケーキを手に取り頬張る。
「そっ、そうですよ! 私達の話なんて終わりにして、他の話をしましょう」
まだ落ち着かない頬の赤らみと、気恥ずかしさを隠すように話題を転換しようとするミリツァは、短く切り揃えられた髪を振り心を落ち着かせようと努めているようだ。まるで、水を被った犬のようだ。
「あっ、そう言えば」
「あん、なんだよ。なんか良い話でも思い浮かんだのか、ブラン」
「いえ、いい話と言うわけではないのですが」
テーブルの端にあるスコーンを口に運んだブラムは、どこかばつの悪そうな表情を浮かべている。余程躊躇っているのか、黙々とケーキとスコーンを交互に口に運んでは頬を大きく膨らませている。ここまで来ると、越冬の準備をしている栗鼠のようである。
徐々に内蔵量の限界が迫っているのか、彼女の手がピタリと止まる。
「ほほ、栗鼠のように可愛らしい頬ですな」
適温になった紅茶を慌てて取ったブラムは、口の中のお菓子たちを喉の奥に流し込む。
「本当ね、その可愛さ私にも分けてほしいわ」
「でも、メイド長がそれ以上可愛くなってしまったら、旦那様は...んっぐ」
とてつもない勢いでミリツァの口を手で覆うリビィの形相は、鬼にも似た羅刹の顔になる。しかし、この繕いも取り越し苦労になることを彼自身は予想だにもしていなかった。
口を押さえつけられ苦悶の表情を浮かべる彼女は、どうにかその手を振り払い大きく息を吸い込むと彼のことを睨み付けた。心なしか、先程より顔が赤く瞳は潤んでいる。確かに、息を止められていたのだから赤くなるのも頷けるのだが、彼女にはそれ以上に違う何かが渦巻いているような感じを受ける。
「いっ、いきなり何するんですか!」
烈火のごとく捲し立てる彼女の頬は、さっきまでの面影を残してはいない。




