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And Without Saying Goodbye Also   作者: sugar
happy everyday(幸福な日常)
28/40

temperature(温度)

徐々に近付いてくる熱は、エミリアの髪を撫で頬へと到達した。熱の正体に触れられ、彼女は肩を僅かに揺らした。


「すまない、顔に触れてしまったか」

「いえ・・・お気になさらず」


暗がりの中に迷う熱は、エドガーの腕だった。

判らなかった訳ではなく、そんな事を気にする余裕は無かったのだろう。夕刻の出来事を思い出し、顔が再燃するかのように濃く赤くなっていった。


「もう、いい大人なのに」


呟く声を拾ったのか、微かに揺れる熱。それと同じくして、部屋を覆う黒い帳に淡く白い月光が差し込んだ。


「大人だからこそ、感じることも多いさ」


鮮明には見えないエドガーの顔は、何処となく擽ったそうで、照れているようにも見える。

その真意はエミリアに分かるわけもなく、ただ淡く写し出された彼の顔を見ては、疑問符を頭の中を埋め尽くしていった。

彼もまた、エミリアの呟いた言葉の意味を真に理解はしていないだろうが、考えは同じようにも見える。

解釈の相違が残ったなか、エドガーはまるで何かを思い出したかのように訝しげな表情を浮かべた。それは自らの相違に疑問を抱いたわけではなく、この室内についてらしい。


「以前から言っているが、明かりがないのは不便じゃないのかい」


柔かな月光は依然降り注いでいるが、確かに明かりがない室内は不便極まりないものだった。現に、この状況を産み出している原因の一つなのだ。


「いいえ、私はこの部屋が気に入っているんです」


実を言うと、この部屋はエミリアがまだメイド長になる前に割り当てられた部屋だった。

他にいくらでも部屋があると言う周りの言葉を丁重に断り、長年物置として放置されていたこの部屋を自らが片付け、整理して住めるようにしたの場所なのだ。


「そうか」と短く切られた言葉を境に、再び月は黒々とした雲の奥に霞んでいく。明かりのない部屋を照らしていてた光も徐々に弱々しくなり、やがて二人の影も周りの暗闇に溶け込んでいった。

再びの静寂。しかしその静寂のなかでもお互いの息遣い、体温でさえ少してを伸ばせば届く距離にある。

本当なら、今すぐにでも愛を囁いてしまいたい。

本当なら、自身の罪を捨て去って、いつまでも側に居たい。

邪な心を制するように、或いは凪払うようにきつく瞼を閉じるエミリアだったが、その行為は

突然響いた物が落ちる音に掻き消された。






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