visit(来訪)
「しょ、少々お待ちください」
ドアノブを捻る音を制するように少し声を荒くするエミリア。
確かに上着だけの状態を人に見られるのは、彼女でなくとも女性なら誰しも思うことである。しかも、旧知の中。主人であり、恋心を抱いている人物なら尚更だ。声が多少強張るのも無理はない。
そんな主の急な訪問に慌てふためいたエミリアだったが、クローゼットから素早く代えのメイド服を見に纏い、最低限の身だしなみを整える。
「お待たせして申し訳ありません」
やや気後れぎみにゆっくりと扉を開いたエドガーは、対面したエミリアを見るや否や戸惑ったような顔を見せる。不思議に思ったエミリアは、エドガーの視線を追うようにして自身を見下ろす。
「っ・・・」
ハッとした様子のエミリア。
どうやら、あまりに急いでいたために釦をかけ違えていたらしく、所々歪に布が縒れてしまっていた。
行き場のない恥ずかしさと情けなさが込み上げて、赤面しながら慎重に釦を掛け直す。
「なんとも珍しいな。常に冷静で、瀟洒なメイド長がここまで慌てるとは」
未だ戸惑っているエドガーが放った言葉は、決してからかうようなものではなく相手を気遣うものであったのだが、この状況であれば笑ってくれた方が些かましな気がしてしまう。エドガーの人の良さが顕著に出ているのだが、複雑な心境のエミリアには酷だろう。
以前として前を向かない彼女に声をかけあぐねているエドガーだったが、様子を察したえみりあが先に口を開く。
「そ、それで、ご用件はなんでしょ・・・うか。明日のスキェ・・・スケジュールの事でしたら・・・」
明らかに包み隠せない動揺に声が震え、挙げ句呂律まで回っていない状態のエミリアを見るエドガーは、その姿に堪えていた感情が沸き上がっていく。
「ふっ、ふふっ」
「なっ、何か可笑しい所がありましゅたか」
切って返した言葉も噛んでしまい、ついにエドガーの堪えていた感情も箍が外れてしまった。
「ふっ、あははっ。いや、ふふっ・・・すまない。ここまで取り乱したエミリアは実に新鮮でつい・・・ね」
今までは、何時如何なるときも冷静に物事を判断し、的確な見解を示してきたエミリア。だが、この状況が写し出している彼女はその風格を微塵も感じさせることはない。
「し、しかし、急にいらっしゃるエドガーもエドガーです。女性にはそれ相応の」
先程より声を荒げるエミリアだったが、自然と「エドガー」と呼んでいることに気付き、口をつぐむ。




