thoughtfulnees(心遣い)
そんな余裕をもつリンベルは、正しく年齢を重ねている証拠なのだ。
憤怒、情愛、熱意でさえ超越している大人。
比較対象にするのは無理があるのだろうが、エミリアの過去は全うな事柄とは逸脱していた。
だからこそ、自らの愚行を越えられるほど感情の壁は低くなかった。
劣等感を抱くことさえ失礼だと言うことは、エミリアが一番理解しているのだろう。不意に気分が落ち込んでしまう。
「そう言えば、私の昔話が途中でしたね。御茶請けになるか分かりかねますが、続きを宵闇の茶会でお話することにしましょう」
「ふふっ、楽しみにしています」
止めどない劣等感に苛まれている心を読まれないよう、出来る限り気丈に振る舞うエミリア。自身が上手く笑えているのかすら曖昧になりかけたが、リンベルは気にとめる様子もなく身の丈が半分ほど蝋になった蝋燭立てを片手に立ち上がる。
「では、私が準備を承りましょう」
「しかし、そこまで任せきりには・・・」
「本日は、メイド長労いの日にしようと旦那様から仰せつかっております。勿論の事ながら、誰一人として嫌な顔一つしなかったのでお気になさらず。何時もは悪戯ばかりしている三姉妹でさえ躍起になっておりました」
屈託のない笑顔に、申し訳のたたない気持ちが沸々と沸き上がってくる。しかし、他の従者たちが躍起になっていると言う話を聞かされてしまった以上、心遣いを無為にすることは如何なものかと思案してしまう。
「では、準備が整い次第使いを寄越しますのでそれまでは暫しの休息を」
結論を出す間もなく、屈託のない笑顔のままリンベルは部屋を後にした。