candle(蝋燭)
「成る程、大方あの三姉妹が夢の中でも暴れまわったのでしょう」
柄にもない冗談を言ったリンベルは皺を寄せながら笑い、蝋燭を台に置くとエミリアが先程促した椅子へと腰掛けた。
「強ち、間違いではありませんね」
紳士的な気さくさを帯びた冗談に、肩に乗っていた重苦しい空気が少し軽くなったのを感じる。完全に拭われた訳ではないのだが、エミリアにとっては一時の安らぎになった。
「それで執事長、態々来たのにはなにか理由があるのではないでしょうか」
嫌みない冗談の応酬に、エミリアもまた飄々とした態度をとる。
上長としては世間の鋳型にはめこんで、常に冷静にそして気高く、かつ瀟酒に振る舞わなければならないのだが今のエミリアにはその片鱗すら垣間みえない。
「おや、見抜かれていましたか」
「伊達や酔狂、贔屓だけで皆を束ねている訳ではありませんよ。考察するくらい造作もありませんよ」
「ほほっ、それは違いありませんな。お見それ致しました」
絶妙に蓄えられた髭に手を充て、朗らかに笑うリンベルの瞳は装いを変える。オレンジ色に輝く蝋燭が照らしても暗い影は見えてこなかった。
暫くの雑談が続いたが、本懐だけを言ってしまえば今夜のお茶会についてだった。
「男の私はお邪魔でしょうかね?」
相も変わらず朗らかな口調のままエミリアを覗き込む。
「滅相もありません。年長者の経験談を教授させてもらえれば、皆の教養になります」
「伝えるほどの学はありませんが・・・多少はお力添え致しましょう」
「是非とも。それでは、準備に参りましょうか」
普段は持ち歩く事がない懐中時計を開くと、時刻は19時を回った所。恐らく、リビィが晩食の準備を整えて待っている時間だ。
気を失う様にして横たわっていた時間を取り戻そうと、ベッドを離れ支度を整えようとするエミリア。
「メイド長、それには及びませんよ。既に晩食の準備、使用人の配置は計らっておきましたので」
当然の事ながら、リンベルもエドガーに仕える身であり皆を総轄出来る立場にある。
エミリアは勿論他の使用人の技量を把握し、適切な指示を行えるリンベルの手腕は、エミリア自身憧憬を抱く事がある。
「私が不甲斐ないばかりに御手数を掛けてしまったのですね。申し訳ありません、執事長」
「いえいえ、メイド長の代わりが出来たかどうかは些か怪しいところではありますが」
謙遜する姿からは、落ち着いた大人の余裕が感じられた。




