evening(夕暮れ)
今まで支えてきて初めての感情に目をそらさずにはいられなかった。
エドガーはエミリアに、何を言うわけでもなくただ近寄って風を遮る。
顔を上げようとしたエミリアだったが、あまりの恐怖心に打ち勝てずに強く瞼を落とす。
(今の、聴かれた・・・のでしょうか。だとしたら私は、私は・・・)
声にならない声はエミリア自身に跳ね返り、心を蝕んでいく。
と、次の瞬間強ばっていたエミリアの体は宙にふわりと浮いていた。
腰には壊れ物を扱うかのように優しくて、強い腕が回され、同様にくの時に曲がった膝にも同様の腕が回されていた。
突然の出来事に戸惑いを隠せないエミリアだったが、頭上から降る声で事が把握できた。
「慣れない靴のせいで靴擦れを起こしているだろう」
撫でるような口調の主へ対する恐怖は、徐々に薄れていった。
「旦那様! わ、私、重いですから」
お姫様だっこをされているエミリアはその衝撃のせいでテンプレートにも程がある返しをしてしまう。
「私をあまりのなめてもらっては困る。女性一人抱えるくらい造作もない。それに、その足が痛々しくてもう見ていられないからね」
全く気付かなかったようだがエミリアの足先、主に側面が真っ赤に染まり鬱血していた。
短時間で様々なことがあったせいで、痛みを感じなかったのだろう。
「歩けますから、下ろしてください。私は・・・」
反抗的な態度とは裏腹に、心臓が早鐘の様に脈を打ち、全身を駆け巡っている血液も沸騰でもしたのではないかと勘違いしてしまいそうな程で、全身を熱くさせる。
ほだされていると言うのが正しいのかどうか、その選択権はエミリアに委ねられているがどうやら冷静にものを考えられるような状況ではないらしい。
感情の羅列に押し込められそうになっているエミリアの体はすっぽりとエドガーの腕の中に収まり、依然として赤く染まった頬を隠せないでいた。青色のドレスも、夕焼けに照されまた違った表情を映しだす。
黙って歩を進める二人の影を縫うように柔らかな風が撫で、ドレスも生きているかのように呼応したなびく。
エミリアにも伝わったその心地良い風が火照った体には心地よかったのだろう、一日の疲れも合間っていつのまにか寝入ってしまっていた。
「無理もないか」
夕凪に溶け込んだ声はエミリアに届く事はなく、整った寝息だけが返事の代りになる。
睡眠聴衆が出来るほど完璧ではないメイド長の愛らしい寝顔をただ見つめては微笑むエドガーを視線からは、親しみを越えた感情が見え隠れしていた。




