date(お出掛け)
食事が終わり、片付けをしているエミリアをエドガーが呼び止める。
「エミリアメイド長、ちょっといいかな」
「なんでしょう旦那様」
エドガーの熱を思い出し、返事をするのがやっとのエミリアは手招きされるままに歩み寄る。
「さっき言った仕事の件なんだが・・・」
ごそごそと、テーブルの下から煌びやかなドレスを取り出すエドガー。
そのドレスは、美しく、艶やかな少し暗い青色のドレスで、フリルには花をモチーフにしたリボンが幾多も結われ、暮れかけた空の元でも儚く輝くような光を内包している。
「珍しいドレスですね。配色も、あまり見かけないですし」
「あぁ、今度新しいドレスを販売しようと思ってね。コンセプトは「そのまま社交場の華になれる」その試作品なんだ」
ドレスをゆらゆらとさせながら嬉しそうに語るエドガーに、1つの疑問をぶつけるエミリア。
「そのままとは、どういった意味があるんでしょうか」
その質問を待っていたかのようにエドガーは切り返す。
「社交界には壁際の華って形容される女性がいるだろう? その女性たちは、舞台には上がっていないだけでとても美しい思考を内包しているんだ。そんな女性たちがこれを着て、暮れかけの空にある1等星を男性に見つけてもらって壁際の華で無く、輝く社交場の華になってもらおう・・・そんな意図があるんだ。だから、今からでも遅くないってね」
誰にでも、脇役でなく主役になれる。
エドガー自身の人の良さを誰よりも知っているエミリアは、その言葉に納得した。だが、もう1つ疑問が浮き出てきたのかそれをぶつける。
「でも、それと仕事と何の関係があるのでしょうか。私、衣服に関しての知識はまるでありませんが」
首を傾げ尋ねるエミリアに、ぐっと顔を近付けるエドガー。先ほどの息使いを思い出したエミリアの顔は、再び熱を持ち始める。
「そう、実はモデルが居なくてね。こんな事、幼馴染の君にしか頼めるような人が居なくってさ」
「はぁ、それを私が・・・」
平静に振舞おうとしたエミリアだったが、言葉の意味を理解した彼女は自分にふさわしくないこの案件に抗議した。
「私は従者です。こんな煌びやかなドレスが似合うわけがありませんよ。それに、シーズンも過ぎていますし、この時期に社交界を開くような酔狂な方が居るとも思えないのですが」
「いや、そうじゃないよ。今から、僕とオックスフォードの街を一緒に歩いてくれないかと思ってね。勿論、これを着て」
「は・・・?」
突飛な台詞に、胸が弾んでしまうエミリア。
(え、え・・・それって、デートしてくれってこと?)
ぶり返したその熱に、今にも呑まれてしまいそうなエミリアの姿がそこにはあった。