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And Without Saying Goodbye Also   作者: sugar
emilia And husband(エミリアと旦那様)
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headmaid emilia (メイド長エミリア)

彼女は、許されない事をした。いや、許されない事を想い、抱いたと言えばいいのか。

この想いは私が死に、棺に入り、口をも開けぬ骸になるまで宿り続け、秘密にするだろう。

それが、彼女・・・エミリアが出来る償いなのだから。




白々明けの朝、湖畔から立ち込める蒸気は幻想的な風景を描いている。エミリアはその風景を眺めながら、身支度を整える。


クローゼットを開け、内蔵されている鏡で首回りと髪の毛を念入りにセット。濃紺なプリント地の服にホワイトエプロンを纏い、ホワイトブリムを深めに被る。時刻は6時半、部屋出ようと扉に手をかけたその時だった。

乾いた木製の扉を、慎ましく叩く音が響く。


「メイド長、起床されてますでしょうか。相談事が有るのですが」


「ブラムさんね。どうぞ、扉は開いています」


失礼します、と一礼をして同様の服を身に纏ったメイドがエミリアを訪ねてきた。

ブラムは、ハウスメイドの一員で、主に茶葉の管理を任されている。

普段は、人当たりも良く、朗らかな性格で、笑顔の絶えないメイドなのだが、今エミリアの前にいるブラムは暗い顔をしている。


「朝早くに、申し訳ありません・・・」


「いいのよ、気にしなくて。それで、相談と言うのは何かしら」


「はい、実は、先日納品された茶葉の品質が余りにも粗悪で、旦那様にお出しする物としては適切ではないと判断し、急遽代用の案は無いかと思いまして、相談に参りました」


顔に陰りを見せるブラム。華奢な体が、より細く繊細に見えてしまう。まるで、少しの衝撃で崩れさってしまいそうな飴細工のようだ。

無理もない。

茶葉を納品しているのは、長年付き合いのある問屋で、いかなるときであろうとも最高品質の茶葉を用意するので有名だった。

その問屋をブラムは信頼し、納品の際に確認をしなかったのだ。

だからこそブラムは、この手酷い裏切りに憔悴した。


「とりあえず、現物を見せてもらえないかしら」

「はい。そう仰ると思いまして、お持ちしました」


差し出された茶葉は妙な湿気を含み、香りも飛んでしまっていたのだ。


「・・・確かにこれではいけませんね。ブラムさん、今日のモーニングティーは私が対応します。申し訳ないのだけれど、リネンと清掃は手伝えないわ」

「滅相もありません!本来、エミリア様がやらなくて良いような事まで毎朝手伝って頂いているのにこれ以上は・・・」


メイド長と家政婦を兼任しているエミリアは本来、七時半に起きて業務を行う。しかし、彼女は他のメイド達と同じか、或は早めに起きて家政婦が普段は行わない業務をこなしている。故に、他のメイド達や、キッチンメイド達からの人望も厚い。

そんな彼女だからこそ、ブラムはブンブンと手を振り自責の念を表している。

今にも泣き出してしまいそうなブラムに、エミリアは少しだけ砕けた口調で話しかけた。



「ブラムさん、私のことは気にしなくてもいいの。それよりも、私は貴女に感謝します」


思いもよらないエミリアの一言に、ブラムは面を喰らい、ろくな言葉も出てこない。その代わりに、涙を溢す。

ブラムの飴細工のような華奢な手にそっと手を重ね、言葉を続ける。


「あなたが正直に話してくれたお陰で、旦那様に出来の悪い紅茶を出さずに済んだの。貴女を茶葉管理の責任者に選んだ私は正解だった。本当に有難う」

「エミリア・・・様」


涙でくしゃくしゃになったブラムの顔に、ようやく光が差し、何時もの彼女らしい朗らかな顔に戻っていく。

そんな彼女の顔を、薄手の布で拭くエミリアの姿と笑みは紛れもなく瀟洒で完璧なメイド長であり、彼女が慕われている理由を表しているものでもあった。




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