プロローグ
高校の入学祝いとして友人とラーメンを食べに行くことになった井上義也。そのラーメン屋は学校からも程近く、中学の間でも、かなり美味いとひそかに噂されていた店だった。
そして義也にとっては初めてのラーメン屋に入ってみると一人の少女がカウンター席に座っていた。
義也は少女に違和感を感じた。しかし彼女の隣には何杯もの小ぶりな器が重ねられていた上、少女が手を止めることなく似たような器でラーメンを食べ続けていたのと同時に、店主もまた厨房でラーメンを作り続けていたため、違和感の正体をそれだったのだと自分に言い聞かせた。
そして少女は店主に『アドバイス』をしていた。
「…さっきのよりは味が利いてきたけど、やっぱり味噌が足りない。キャベ ツは…群馬産だよね。長野の山岡さんの農場のにすればこの味噌に合うと 思うの。それに、そっちの方が低コストで値段も安くなる。…麺は茹で過 ぎ」
義也は呆然としていたが、友人は特に気にも留めず、BGMや壁の絵程度の認識でテーブル席についた。義也も席につくと店主が水を運んできたと同時に店の入り口から身長180㎝は超えていそうなパーカー姿の男性が入ってきて少女の方へ向かった。
「紅葉、帰るぞ。凛さんありがとうございました」
そう言われてカウンター席の少女に付きっ切りだった店主が頭を下げていたことから、その人が凛さんなのだと理解した。
そしてもう1点、男お陰で気づくことができた。違和感の正体は、ラーメンを食べているのが少女だけで、保護者も誰ももいなかった事だったということに。
立ち上がったお陰で少女の全体を初めてみることができたが、少女の身長はおよそ130といったところか、小学生であることはすぐに解った。身長以外にも、彼女が店主からランドセルを受け取っていたからだ。
やはり男と少女が並べば親子に見える…が、入ってきたときは、逆光で見えなかったが、男は体の割りに童顔で、少女の方は幼い顔だが、どこか大人びた雰囲気が出ていた。例えるならまるで見た目は子供、中身は大人といったようだ。
義也は友人が自分の注文を待っているということに気付き、慌てて味噌ラーメンを注文した。
「凛さーん、チャーシュー麺と味噌ラーメン、それからから揚げひとつずつ ー。お願いしまーす」
友人が店主に注文をすると、店を後にする2人の男女の姿を、静かに見送り、友人に世間話を切り出そうとした。…が、先に話題を提供したのは友人のほうだった。
「お前、ロリコンだったのか?ま、紅葉ちゃんはこの店のアイドル常連みてぇなもんだしよ、毎日でも来りゃ彼女も…振り向いてくれん じゃね?」
そういって友人はカカッっと笑った。
「そんなんじゃ…」
そして義也は運ばれてきたラーメンを口にした。さっきから店主が作っていたためにあまり時間がかからなかった。
「美味い…すごいや」
「だろ?」
間食し終えた2人は、あまりの美味しさにまた来ることにした。
友人と別れてから義也は、店を出る際に凛さんが言っていたことがずっと気になっていた。
『この店もあと1年か』
―――お店やめるつもりなのかな?
そしてある日お店の前を通ると入り口に『バイト募集』の貼紙が貼ってあったので入ってみた。丁度義也もバイトを探していたところだった。
すると店主はカウンター席に座ってニッコリとこちらをみつめていた。
「バイト希望かい」
「はい…」
「じゃあ新作食ってけ」
「はい。」
食べると以前食べたものと比べ物にならないくらい味が落ちていた。
「どうだ?」
「…あ、味噌変えたんですか?」
「よし採用」
尋いた瞬間採用といわれて戸惑ったが、翌日から義也は働くことになった。仕事は皿洗いやテーブル拭き、掃除をしていたが、一番多かったのは試食だった。
一週間後また少女が来て『アドバイス』を言って帰った。聞くと彼女は素直だが美味と言ったことがないらしい。それが聞きたくて兄がこの店に頼み込んだらしい。
―――あれは兄だったのか。
彼女の「美味い」を聞くためにもがんばって義也は働くことにした。




