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愛するから香りに殺されるんだ  作者: ドラホルモン
8/12

香織

 私は三日前のことを思い出しながら登校していた。なぜ、詳しく友利に話してしまったのだろうかと。


あの路地の入口で自転車で友利にぶつかったのは偶然ではない。あの人の子供かどうか確かめたかったからだ。

佐久間という苗字はこのあたりでは珍しいし、なんとなく確信めいたものがあった。普通に幸せに暮らしているのかも気になった。


友利の母親も亡くなり、あの人は未だにお母さんを求めてユリの庭に通い、決して幸せな家庭ではなかったことを知った。

これで腹違いの弟を恨まずに済んだと嬉しくなった。



それにしても、あの人は愚かだわ。

自分の子供に友利って付けるなんて普通に読んだら、ゆうり、じゃないの。


あの人はお母さんの事をゆーりと呼んでいた。ゆーりという愛称はお母さんの日記を読んで知った。

こっそり庭に来るあの人が父親なんだろうという事も、母さんの日記からあの庭が、お爺様の目を盗んでの密会場所であった事から想像がついた。


庭に来るあの人は、池のほとりのベンチに腰掛け目の前にあたかもお母さんがいるかの様に「ゆーり、ゆーり、愛してるよ」と呟いていた。


木陰からその様子を見ながら私は思った。

(そんなに愛していたのならお母さんをさらって行けばよかったのよ、今更、なによ情けない)


そうすれば、私は養父母に預けられることも無かっただろうに。



 養父母との生活は、幸せなものではなかった。

それは多分お爺様の会社が倒産した為に、養父母への仕送りが充分でなかったのも原因の一つだったのかもしれない。

私はまるで、家にいないも同然に扱われた。


お爺様から呼び戻された時は、我慢の限界を超えていたので嬉しかったが、呼び戻された理由がお爺様の高齢と持病の心臓病の悪化と、少しの痴呆によるものと知り、再びお爺様の都合によって動かされている自分に気づき嫌気がさした。


それでも、中学に入り毎晩のように養父に夜の相手をさせられる生活から逃げ出せるのなら、介護のような生活の方がずっとマシだった。


お母さんとあの人に関しては別に何の感情も持っていない。

あの人たちはただ、お爺様の意向に逆らう事が出来なかった意気地無しな人達で、恨みよりも同情に値する。


私は、人に縛られるような暮らしはもうたくさんだった。自分の道は自分で決める。

養父母宅での暮らしは、順ずるしか生きるすべを知らなかったから、全てを従順に受け入れるしかなかったけれど、もういいだろう、私は自分で切り開こう。


このままでは大学にも行けない。深井家の財産は私を大学に通わせる分も残っていなかったのだ。

そろそろ、進路を決めなくてはいけない時期だった。



今日、決着をつけよう……。



そして、この庭を売り私は自分の人生を送ろう。

未成年でも後見人をつけて法定代理人にすれば土地取引ができる。ユリの庭はお母さんの過去の思い出の庭で、私には関係のない事だ。




校門に着くと友利が友達と話をしていた。



(弟も私の様に、ずっと苦しんできたのだろうか……

でも、思ったより元気そうで良かった。姉の私が現れてショックだったでしょうに……)





そして「あれ、友利くんじゃない。おはよう」と声をかけたのだった。





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