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天宮の煌騎士:短編集  作者: 真先
Episode 2: 聖剣伝説
6/18

買い物に行こう!

 早速、一同は光子剣の制作に取り掛かることになった。

 まずは必要な部品の調達から始めなければならない。光子武器に用いられる 部品自体はそれ程高価な物でなく、一般人でも容易に購入できる。専門店に運べば、一通り購入できるはずである。

 スベイレン中層にある光子武器専門店には剣制作に必要な部品、全てが揃っていた。

 騎士学校の生徒達が多く利用するこの店は、大きさも内容もかなり充実している。

 店の様子は何処にでもあるようなホームセンターと似たようなものだ。

 ずらりと並んだ陳列棚に所狭しと並べられた部品類。組み立てに必要な工具類もある。

 騎士学校の生徒が頻繁に利用するこの店には組立作業のできる工房も併設されており、購入した部品をその場で組み立てることが出来る。


「……仕方ないから手伝ってやるが。俺達がやるのは組み立て作業だけだ」


 店の中に入ると同時にライゼは新入生達に向けて宣言した。

 その顔は明らかに面倒臭そうであり、これ以上の面倒を嫌っていることは明らかであった。


「部品選びはお前達でやれ。俺達は工房で待っているから、お前達は部品を買って持ってこい」


 そう言って新入生達に部品の買い付けを命じるが、


『…………』


 新入生達は蛇に睨まれた蛙のように、店の入り口から一歩も動こうとしない。


「どうした、お前ら? まさか部品代まで俺達に出せって言うつもりじゃないだろうな?」

「……そんな事を言っても無理ですよ。ライゼさん」


 同じ機械音痴として、三人の心理が良く分かるのだろう。彼女たちになりかわり、返事をしたのはミナリエであった。


「そもそもこの娘達は、工作に必要な部品が何かすらも解らないんです。皆がついて行って、部品を一つ一つ選んでやらなくちゃ……」

「買い物すらできんのか、お前ら!」

「だって、こんなに種類があるんですよ? どれを選んでいいのかわからないし、何処に何があるのかも解らないじゃないですか」

「簡単だろうが!? いいか、この店じゃ組み立てる順番に商品が並んでいるんだ。ほら、見て見ろ!」


 そう言うとライゼは店内を指し示した。

 一見、雑然と商品が並んでいるようだが、よく見れば一定の規則性が見えてくる。

 商品棚には看板が、床には色分けしたテープが貼ってある。これを頼りに進めば商品の元へとたどり着けるというわけだ。


「この店じゃ入り口からレジまで、陳列棚を順番に回っていけば必要な部品はすべて集まるようにできているんだよ。……まずは本体ケースからだ」


 本体ケースのコーナーは、店を入ってすぐ、右側の外壁にあった。

 壁一面に並べられた本体ケースに、圧倒されたメルクレアは感嘆の声を上げる。


「いっぱいあるねぇ」


 光子武器の外観を形作る本体ケースは、武器の種類によって様々な形状をしている。

 六フィートを超す竿状武器から、二インチ程度しかない投剣。弓、弩、銃などの投射武器と色々な形の本体ケースが並んでいる。


「ここには剣以外の本体ケースが置いてあるから気を付けろよ。斧とか手槍とかは特に間違えやすいから気を付けろ。剣はこの辺だ」


 ライゼの案内で剣が陳列されている場所へと向かう。

 剣の本体ケースはどれも似通った外観をしている。

 全長は五インチから十インチ程度。太さは二インチ前後。光子剣の柄に相当する、金属製の円筒形には滑り止めのグリップに覆われている。

 グリップの形状や素材は様々である。戦闘用の厳つい造りの物や装飾用の派手な物まで、使い手の好みによって選ぶことができる。


「あ、これ可愛い♪」

「それはやめておけ」


 白蝶貝のグリップが施された本体ケースに手を伸ばすシルフィを制すると、ライゼは別の商品を手に取った。


「剣は見た目よりも使いやすさが重要だ。初心者にはラバー製のグリップがいい。滑らないし値段も手ごろだ」

「ちょっと待ってよライゼさん」


 樹脂製の本体ケースを進めるライゼにサイベルが待ったをかける。


「初心者には革巻きのグリップが向いているんじゃないか? 緩衝材を挟んで上からレザーを巻きつけると、手にぴったりとフィットするんだぜ」

「面倒くさいだろう。レザーを巻きつけるなんて初心者には無理だ。耐久性にも問題があるし、ラバーグリップが一番だよ」

「ラバーだとべとつくし、手が臭くなるじゃないか。後々の事を考えれば、レザー巻きの方がいいって」


 剣を構成する部品の中でも、グリップは使用者の好みがも最も顕著に表れるパーツである。二人ともこだわりがあるらしく、一歩も引こうとしない。

 さらに二人の言い争いに、ラルクが参加する。


「長く使うことを考えたら木製グリップなんかいいんじゃないか? 使い込むに連れ手に馴染んでしっくりくるんだ」

「木製は耐久性に問題があるだろうが。第一、高いじゃないか?」

「そんなことはねぇよ。天然木は高級品だけど、コルクとかだと安く作れるぜ。耐久性だって結構……」

「あーっもーっ! うるさい!!」


 少女達をほったらかして言い争いを続ける男たちを、ミナリエが一喝する。


「三人とも、自分の好みを押し付けるのはやめてください!」

「いや、俺達はただ、みんなにアドバイスをだな……」

「この娘たちに自分で選べと言ったのはライゼさんでしょう!? だったら好きなようにさせてあげなさい!」

「……わからないって言うから、教えてやっているのに」

 

 親切心を無下にされたライゼが口を尖らせる。


「じゃあ、先に内部パーツを組み上げてしまいましょうか?」


 拗ねるライゼをなだめるように、ラルクが提案する。


「その方が、作業効率がいいんじゃないかな? ケースの方は後でじっくり選べばいいし……」

「それもそうだな。……じゃあ、先に内部パーツを選びに行こう」


 ラルクの意見に頷くと、一行は次の陳列棚へと向かった。

 店の中央に位置する陳列棚には、光子力武器の内部パーツが置いてあった。

 ベースとなる基盤を筆頭に、データチップにプログラムチップ。光子力投射装置に冷却装置。電源ユニット――と、様々な機械部品が並んでいる。


『……ううっ』


 こういったいかにもメカニックな見た目が、機械音痴が最も苦手とする所であった。むき出しになった基盤やうねうねとのたうつ配線に、少女達は拒絶反応を起こした。

 猛獣を前にして逃げだすように、後ずさりする。


「大丈夫だって。光子力武器の構造は意外とシンプルなんだ」


 気後れした様子の少女達に、笑いながらラルクが説明する。


「最初に基盤を選ぶんだ。これに必要な部品を組み込むだけで完成。な、簡単だろ?」

「それで、どれを選んだらいいんでしょうか?」


 シルフィが訊ねると、待ってましたとばかりに男たちは一斉に口を開く。


「やっぱり拡張スロットは最低でも四本は欲しいな。チップはミドルクラスで十分だろう、上を見たらキリがないからな」

「バッテリーだけは良いのを選べよ? パワー不足は故障の原因になるからな。でかいのを乗せておけば間違いないが、部品が干渉しないように配置に気を付けろ」

「せっかくの自作なんだから、冷却装置にもこだわりたいよな。リテール品なんか使っていたら笑われるぜ。液冷方式は管理が面倒だけど確実に冷えるからおすすめだぞ」


 ラルク、ライゼ、サイベルの順にこだわりのある部品選びを披露する。

 

『???????』


 しかし少女達には、彼らが何を言っているのか、さっぱりわからなかった。

 疑問符を頭上に浮かべ専門用語の奔流に目を白黒させる。


「……だからさ、そんなことを言っても解らないでしょう」


 見かねたミナリエが、再び間に入る。


「どんな部品が必要で、部品ごとにどんな効果があるのか説明してやらないとわからないんだよ」

「面倒くせぇな……」

「とりあえず錬光石から先に選んじまうのはどうだ?」


 うんざりとした顔で呻くラルクに、横からサイベルが提案する。


「光子武器の中でも錬光石は一番重要なパーツだ。どんな錬光石を使うかで剣の特性が決まる」

「そうだな。おおよその方向性が決まるし、そのほうがやりやすいかもしれんな」


 サイベルの意見にライゼが同意する。

 再び皆は連れ立って、次の陳列棚へと向かった。


 神々が与えたもうた奇跡の石――人間の思考を具現化させる力を持つ錬光石は、最も重要で、高価な部品である。そのため錬光石の陳列棚は、店員が監視しやすいようにレジカウンターのすぐそばに置かれている。

 宝石店にあるようなショーケースに納められた錬光石は、まさしく貴婦人を魅了する宝石のようであった。

 赤、青、緑の三色に輝く錬光石が、色別に分けられ整然と並んでいる。

 形状も多種多様だ。真ん丸の球体にサイコロのような立方体。四面体、六面体、八面体、十二面体、二十面体――と、様々な形にカッティングされた錬光石は、室内灯を反射し美しく輝いていた。

 天然の貴石を見つめ、少女達はうっとりとつぶやく。


『綺麗……』

「見た目だけで選ぼうとするなよ? 錬光石の色や形状、数と配置によって切れ味が変わってくるんだから」


 うっとりと錬光石を見つめる少女達に、ライゼが釘をさす。


「錬光石の色は赤、青、緑の三色だ。赤が一番、波長が長く、青が短い。緑が中間だ。これを本体に組み込むと、同色のブレードを展開させることが出来る。錬光石を複数個組みあわせることにより、さまざまな色のブレードを作ることが出来る。赤と青の錬光石を組み込めば紫色の剣を作ることが出来るし、黄色の刃を作りたいのならば緑と赤を組み合わせればいい。錬光石が増えれば、高度な技を使うことが出来るようになるが、その分扱いが難しくなる。一人の人間が一度に扱える錬光石は、三個が限界だとされている」

「……六個も内蔵している剣を使う奴もいるけどな」


 サイベルの呟きに苦笑しつつ、ライゼは説明を続ける。


「まあ、数が多ければ偉いってもんじゃないからな。他の武器が使えなくなっては困るから、大抵の騎士は錬光石一個だけの原色の剣を選ぶ。お前達も一個にしておけ。色は緑、これが一番使いやすい。次に錬光石の形状だが、これは刃の斬れ味に影響する。カッティングの角度によって刃の形と強度が決定する。こればっかりは個人の好みだ。初心者はとりあえずソーサー型を選んどけ」

「ちょっと待った」


 円盤状の錬光石を勧めるライゼに、ラルクが待ったをかける。


「基本はボール型でしょ? 設定の幅が広いし、」

「ボール型は調整が難しいだろ。ソーサー型が一番安定しているじゃないか」

「安定性を考えるならキューブ型だろう?」


 二人の言い争いに、さらにサイベルが加わる。


「今時、キューブ型なんか使っている奴なんかいないだろ!」

「ボール型だって時代遅れじゃないか!」

「だからソーサー型の何が不満なんだよ!」


 そして、三人の男たちは本日何度目かの不毛な論争が始まった。


「……また始まった」


 呆れるようにつぶやくミナリエに、彼らを止める気力は最早残されていなかった。

 止める者がいなくなり、男たちの言い争いは徐々にヒートアップしてゆく。


「そんな事言うならサイベル、お前の剣見せて見ろよ!」

「いいですよ。ほら、俺のはオクタ型の赤とイコサ型の緑の並列です」

「またややこしい構成を……。ちゃんと整備してんのかよ?」

「してるよ。毎月、職人に頼んでチェックしてもらっている」

「成金」

「だから成金、言うな! ラルクさんこそどんな剣使ってんだよ!?」

「テトラ型の青。三連直結だ」

「……何それ? 同じの三つ繋げてどうすんの?」

「うっせーな。俺が使いやすいんだからいいだろ! ライゼさんあんたは?」 

「俺のは普通だぞ。ステラ型の赤、一つだけ」

「普通じゃねぇだろ。スベイレンでステラ型なんて使ってるのはあんたぐら……。何だ、この穴?」

「ああ、〈炎刃〉を使う時にそこに指を突っ込んで、直接錬光石に触れて思考を……」

『ぎゃあああああああああああああっ!』


 突如、ラルクとサイベルが悲鳴を上げる。


「馬鹿じゃねぇの!? この人、馬っ鹿じゃねぇの!?」

「何考えてんだよ、あんた!? ちょっとでも技の制御しくじったら、火だるまじゃねぇか!?」

「しくじらなければいいだろ? 大丈夫だよ。俺、火炎系の技、得意だもん」

「うわ、ダメだこの人。失敗した時の事、全然考えていねぇ」

「かもしれない運転とかできない人だな。想像力が著しくかけているんだ」


 話題はとうとう互いの人格攻撃にまで発展した。

人間性を否定されてライゼも黙っては居られない。二人の後輩たちに日頃の生活態度を改めるように説教を始める。女性にだらしない、金遣いが荒いなど、剣の話からどんどん離れてゆく。

こうなると手の施し様が無い。

ミナリエと三人の少女達は黙って監督生の説教が終るのを待ち続けるしかない。


「何かお困りですか?」


 やがて、騒ぎを聞きつけた店員がやって来た。

言い争いをしているのはレジのすぐ側。会計を待つ客たちがこちらの方を注目していた。


「ええ。……ご覧のとおりです」


 辟易とした表情で答えるミナリエに、店員は楽しそうに笑った。

 大声で言い争う男たちに、さぞ迷惑しているのだろうと思っていたがそうでもないらしい。女性店員は穏やかな物腰で接客してくれた。


「新入生の課題ですか?」

「ええ、そうです。わかりますか?」

「そりゃあ、毎年の事ですから。いつもこの時期になると、騎士学校の生徒さんが大勢お見えになるんですよ。課題用の剣を作るため、皆さん大騒ぎしながら部品を選んで行かれます」


 店員は再び笑う。

 道理で接客態度が手馴れているわけだ。生徒達のバカ騒ぎもこの店にとっては季節の風物詩らしい。


「よろしかったら、あちらの商品はいかがですか?」


 そう言うと、店員はレジのすぐそばにある陳列棚を指さした。

 セール品用のワゴンの上には、何も書かれていない無機質な段ボール箱がいくつも並んでいた。

 箱の上には蛍光ペンで『新生活応援セット』と書かれた安っぽいポップが貼り付けてある。


「これは?」

「自作初心者向けの組み立てキットです。剣術課程の課題に必要な部品と、整備道具一式がセットになっています」


 毎年のように繰り広げられるバカ騒ぎに、店側も対策を講じていたらしい。

 これならば、右も左もわからない初心者であっても簡単に剣を作ることが出来るだろう。

 早速、少女達は組み立てキットを手に取った。


「こんな便利なものが……」

「うまい商売だわ……」

「今までの苦労って、一体……」


 複雑な表情で箱を見つめる少女達に、店員が最後の一押しをする。


「今ならばサービス期間中です。スタッフが組立ててお渡しします。如何でしょうか?」

『買った!』


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