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天宮の煌騎士:短編集  作者: 真先
Episode 3: リドレックは二度死ぬ
12/18

木曜日

 木曜日。

 週の折り返しになると、スベイレンでも週末の闘技大会に向けて動き始める。

 スベイレンでは全てが闘技大会を中心に動いている。徹底した成果主義と実力主義の騎士学校では、闘技大会での成績が全てである。授業でどれだけ好成績を収めても、闘技大会で結果が出せなければ意味が無い。

 生徒達は試合で好成績を収めるべく、あらゆる手段を講じる。対戦相手の情報収集から妨害工作まで、水面下では様々な駆け引きが繰り広げられていた。


 毎日が日曜日のサボり魔、リドリックと言えども例外では無い。休暇を終えて存分に英気を養ったリドレックは、学内にある研究棟へと向かった。

 ここスベイレンでは時代を担う騎士を育成すると同時に、新型兵器の開発・研究が行われていた。学内で日々繰り返される、自実戦形式の訓練と試合からは、貴重な研究データを得ることが出来る。この研究棟では技術者を志す若者たちが昼夜を問わず研究に没頭している。


 騎士団寮において技術者技術者たちの果たす役割は非常に大きい。武器の制作、整備にはじまり、それらを使った戦術の構築と――華々しく戦う騎士たちの裏では、支える彼らの存在は

 闘技大会は彼ら技術者にとっても腕の見せ所である。観戦に来た各国騎士団や企業のスカウトの目に留まれば卒業後、テクノクラートとして仕官、就職してゆくのである。


 スベイレン中層部の学校区画に研究棟は存在する。白一色の無機質な建物の中を、白衣姿の研究者たちが行き交う。

 その研究棟の一角――機動兵器実験場の整備ハンガーに一体の機械歩兵が駐機していた。


 カンネル兵器工房製、汎用人型機械歩兵〈MXF―39L ハビリス〉。


 老朽化により退役が決定した現在の主力機である〈MF―27 エレクトス〉の代替機として開発された次世代型機械歩兵、その局地戦闘仕様である。

 全高約7フィート。換装従量400ポンド強。

 主力兵装は80mm荷電粒子砲。副兵装に50口径パルスレーザーガン。白兵戦用に戦斧型錬光武器。その他、遠隔操作型浮遊機雷と対人用テイザーなどを標準装備。


 配備前の試作機がスベイレンにある理由は、今週末の闘技大会で最後の評価試験を行うためである。

 スベイレンではしばしば帝国国内の兵器産業から、新型兵器の評価試験を依頼されることがある。

 兵器商人たちにとって闘技大会は貴重な実戦データを得られる実験場であると同時に、新兵器の威力を世間にアピールできる場でもある。闘技大会の模様は光子通信網を通じて全島中継される。新商品の宣伝にはうってつけだ。


 そして、この新型兵器の対戦相手として選ばれたのが他でもない、リドレック・クロストである。

 

 リドレックがこの整備ハンガーへとやって来た理由は、関係者と打ち合わせを行うついでに、対戦相手である新型機を見せてもらうためである。

 主任整備士は嫌な顔一つせず、搬入されたばかりの新型機の見学を許してくれた。

 わざわざ機械歩兵の外装を剥いで内部構造まで見せてくれた上に、主任整備士自ら懇切丁寧に説明までしてくれたのだが、門外漢のリドレックにはさっぱりわからない。

 しかし、素直にわからないと答えるのはわざわざ説明してくれた主任整備士に申し訳ない。


「なかなか良さそうじゃないですか」


 とりあえず黒と黄色の警戒色で縁取られた緊急停止ボタンを見つめ、それっぽいことを言って見た。


「そりゃ、良いだろうよ」


 素人丸出しの意見を見透かされたのか。そっけない調子で〈エレクトス〉の主要整備士を務めるヤンセン・バーグは答える。


「納期の二年遅れでようやく完成にこぎつけたんだ。良く無くてどうする」


 元々愛想のない男ではあるが今日はいつにもまして反応が冷淡だ。

 いつもならばリドレックの無知を罵った挙句、薀蓄を交えた説教を聞かされる所である。

 一通りの説明を終えるとヤンセンは取り外した外装を黙々と取り付けてゆく。その仕草は、いつもよりも緩慢に見えた。

 どうやら彼の不機嫌の理由はこの新型機にあるようだ。


「何か気に入らない事でも?」

「気に入らなくはないさ。良くできていると思うぞ、この機体は」


 外装をつけ終わると、ヤンセンは機械歩兵の姿を振り返った。

 試作機に施されたオレンジ色の機体を見上げるその顔は、やはり不機嫌そうであった。


「装甲版は軽くて剛性の高い強化樹脂製。動力もこのサイズの機体を動かすには十分出力だ。〈エレクトス〉と規格が一緒だから、兵装がそのまま使える。これにより整備の負担が軽減させると同時に、製造コストを大幅に抑えることが出来るだろう。商品化すれば売れるんじゃないのか?」

「じゃあ、何が気に入らないんです?」

「優等生過ぎるって言ってるんだよ。戦闘兵器としての個性って言うか、特徴みたいなものが見当たらない。まるで『ぼくのかんがえたさいきょうのきかいほへい』だ。現行機のいいところだけをチョイスして継ぎはぎにしただけで、目新しい技術は一切使われていない。技術者から見ればまったく面白みのない機体さ」

「……いや、でも。しょうがないじゃないですか」


 言いがかりとしか思えないヤンセンの意見に、リドレックが反論する。


「兵器に求められるのは第一に信頼性です。常に危険と隣り合わせの戦場において兵士が選ぶのは、やはり使い慣れた武器ですよ。革新的で高性能であっても、信頼性の低い武器なんか作っても売れませんよ」

「それが気に食わんと言うのだ!」


 学生騎士として現場で武器を振るう立場のリドレックの意見に、ヤンセンは激怒する。


「兵器開発は時代の最先端を行く技術だ。技術の革新こそが、人類の進歩を促してきたのだ。旧来の技術に頼り切って先端技術の導入に二の足を踏むなどもっての他。人類の発展を阻害する許しがたい怠慢だ!」


 声を荒らげ人類の進歩と調和を訴えると一転、声を潜めリドレックに訊ねる。


「それで、どうだ? 勝てそうか?」

「いや、勝っちゃだめでしょ……」


 今回のリドレックの役目は、この新型機械歩兵と対戦し――敗北するところにある。

 闘技大会で衆人環視の見守る目の前で新型兵器の性能を余すことなく引き出し、無様に敗北して見せてこの機械人形のデビュー戦を華々しく演出するのがリドレックの役目である。

 新型兵器の実戦テストと言うのは名目上に過ぎない。その実は新製品のデモンストレーションでしかない。成績最下位の《白羽》、リドレック・クロストに相応しい仕事であった。


「試合には新型兵器の出来栄えを見ようと、各国騎士団の代表や、企業のお偉いさんがわんさか来るんです。僕が勝ったら、せっかくのお披露目が台無しじゃないですか」

「構わんぞ、私が許可する。お偉方の目の前で、あの機械人形をスクラップにしてやれ」


 本気でこの新型機が嫌いなようだ。


「駄目ですよ。そんなことしたら僕が校長に怒られます。それに、本気で戦ったとしても僕の実力では、到底かないそうにありませんよ弱点が無い優等生って言ったのはヤンセンさんじゃないですか」

「弱点はないが、欠陥はあるぞ。こいつが機械歩兵である限り――人の形をしている限り、逃れられない構造的欠陥を抱えている」

 

 そう言ってヤンセンは、再び機械歩兵の姿を見上げた。


「人型というのは戦闘には不向きな形態だ。二足歩行は複雑で無駄が多い構造だし、センサー類と人工知能を納めている頭部は不安定な位置にあるため一撃で破壊される可能性がある。俊敏な動きをするには四肢は細くなければならないし、胴体部の限られたスペースでは高い出力の動力は納められない。多脚歩行型や装輪型、浮遊機動型に比較すれば、明らかに見劣りする。」


 ヤンセンの技術者視点の意見は、厳しく遠慮がない。

 さらに、ヤンセンは続ける。


「これだけの問題を抱えているにもかかわらず、いまだに人型兵器の開発が続けられているのが不思議でならない。まあ、欠陥兵器売りつけて、戦争が長引いてくれた方が企業としてはありがたいんだろうが……」

「しっ! 聞こえますよ」


 リドレックは、慌ててヤンセンの口を塞ぐ。

 振り向くと整備ハンガーの入り口から、こちらに向かって二人の男たちが近づいてくるのが見えた。

 そのうちの一人。騎士学校校長イライア・バーンズが、リドレックに向かって話しかけて来た。


「やあ、リドレック! どうかね、新型兵器を見た感想は?」

「……なかなか良さそうじゃないですか」

「うん。そうかそうだろうとも」

 

 ぞんざいな社交辞令にうなずくと、校長はリドレック達に傍らに居る人物の紹介をはじめた。


「こちらはカンネル兵器工房のクレイド社長だ。今回の評価試験を前に、わざわざ視察に見えられたのだ」


 クレイド社長は白髪の壮年の男であった。

 がっしりとした体格にきっちりとスーツを着込んだその姿はいかにも企業重役と言った風体であった。


「社長、こちらが主任整備士を務めるヤンセン・バーグ。そして隣に居るのが、新型兵器の対戦相手を務めます……」

「リドレック・クロストでしょう?」


 兵器工房の社長はリドレックを一瞥すると、不満そうに鼻を鳴らす。


「《白羽》の名前は私も知っています。バーンズ校長、他に適当な相手がいなかったのですか?」

「彼が相手では御不満ですか?」

「よろしいですか、校長? 今回の評価試験は顧客の前でこの新型機の性能を披露するのが目的なのです。こんな《白羽》なんぞを倒しても、何の自慢にもなりはしないでしょう」


 あからさまな侮辱であったが、リドレックは気にも留めない。

 この手の侮辱には慣れているし、企業経営者がどう言った種族かも知っている。彼らの最優先事項は企業の利益であって、学生騎士の自尊心を思いやる心など一切持ち合わせていない。


「〈ハビリス〉はわが社の作り上げた最高傑作です。その対戦相手を務めるのは、最高の騎士であるべきだ。例えば、橙馬騎士団のライゼ・セルウェイとか……」

「とんでもない!」


 社長の申し出に、校長は一瞬で青くなる。


「ライゼ・セルウェイはスベイレンでもトップクラスの選手です。いかに新型が優秀であっても、機械歩兵相手に後れを取る事などあり得ません!」


 火炎系錬光技の使い手であるライゼ・セルウェイはスベイレンを代表する選手である。

 朴念仁で空気の読めない彼が試合に出たらどうなるか――燃え盛る炎の中、消し炭にされてゆく機械歩兵の姿が目に浮かぶ。


「それに、今回の試合では実弾を使用するのですよ? まともな選手では相手になりませんよ」

「ちょ、ちょっと待ってください」


 さらりと言ったその一言を聞きとがめたリドレックが慌てて止めに入る。


「何ですかそれ、実弾を使用するって……」

「あれ? 言っていなかったかね? 今回の評価試験では、ウェポンフリーの実弾装備で行うことになっているんだ」

「聞いていませんよ! 知っていたら引き受ける訳ないでしょう!?」

「そんなこと言ったってしょうがないじゃないか。今回の評価試験は可能な限り実戦に近い形式でという、社長たっての要望なんだから」

「何がしょうがないんですか!? 実弾なんか使ったら死んじゃいますよ!」

「大丈夫だよ。先週の試合だって君、心臓止まっても生きていたじゃないか」

「いや、死ぬから。荷電粒子砲を正面からくらったらさすがに死ぬから!」


 リドレックの抗議を一切無視して、校長は説明を続ける。


「彼はともかく、他の生徒達では死んでしまう危険性があります。試合中の事故で生徒が死ぬようなことがあれば困るのですよ。学校側の責任問題になりますからな。社長だって困るでしょう? 顧客の目の前で、おたくの新型兵器がうちの生徒を惨殺する姿を見せるようなことにでもなれば……」

「困りますよ! それは困りますよ! 新型兵器の、いやわが社にとってとんでもないイメージダウンだ!」


 社長は左右に大きく頭を振った。

 校長も社長も、生徒の命の事など全く考えていない。彼らの頭の中は自分の保身の事しか考えていない――つくづく碌でもない大人たちである。


「リドレックは最高のやられ役です。見せ場というものを心得ている。新型兵器の性能を最大限に引き出し、見栄え良く見えるように派手に敗北してくれるでしょう」

「……分かりました。ここは校長にお任することにしましょう」


 下種な大人同士。通じるものがあったのか、話がまとまったようだ。

 こうして、次の闘技会におけるリドレックと新型機械歩兵の対戦相手が決定した。


「……ちょ、待てよ! 勝手なこといってんじゃねぇよ。実弾使ったリアルバトルなんて、マジ洒落になんないよ! 死ぬから、本当に死ぬから! ……って、ねえ聞いてる?」


 勿論、リドレックの抗議に耳を傾ける者はいない。


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