妖怪退治
多分、モチーフは直ぐに分かると思います。
「また失敗したのかッ!! これで何回目だッ!! もう二年目の社員だろうがッ!!」
「……すいません」
今日も俺は上司に怒られていた。そして一日の仕事を終えて帰宅していた。
「はぁ……やっぱサラリーマンには向いてないなぁ……」
俺はコンビニで夕飯を買って自宅のアパートに帰っていた。
「転職すっかなぁ……ん?」
ふと気付けば何時もの帰り道である住宅街へと歩いていたが、視界に古ぼけた神社に目が入った。
「この神社……前からあるみたいだよな」
住宅街が出来るまではけっこう綺麗な神社だったらしいが、住宅街が出来て廃れてしまったみたいだ。
取り壊しもあったみたいだが、業者の事故や取り壊しを推進した市長が急死したりと祟りがあるんじゃないかと言われて取り壊しは中止されて以来、そのままにされている。(てか放置だな)
「……ほい」
俺は財布から五百円玉を出して賽銭箱に入れてから二拝二拍手一拝をした。
「何か面白い事は無いかなぁ……」
ふと、俺はそう思った。最近は仕事も悪いし何か良い事があれば思ったが……まぁ神様がそんな願いを聞くわけないか。
「さて、帰ろう……か?」
振り返った瞬間、俺は唖然とした。振り返ったら住宅街があると思ったはずなのに、何故か森の中にいた。
「……は?」
俺は辺りを見渡したが神社がある以外は森だった。そして神社から何処かに通じると思う獣道はあった。
「……いやいやいや」
俺は頭を横に振る。最近、仕事が忙しいからミリタリーやアニメを見てないから幻覚症状でも出たのだろうか?
それなら片目か片手にしてほしいんだが……。
「そうだ。これは夢だ夢。夢なら頬を引っ張って……痛い……」
左頬を引っ張ってみたが痛さを感じた。つまりこれは夢ではなく本当の事なのか?
「取りあえずスマホスマホ……」
俺はポケットからスマホを取り出して付ける……が、画面には圏外のマークがあった。
「圏外……? そんな馬鹿な。此処は住宅街のはずだ……」
『ニンゲンダニンゲン』
「………」
その時、何処からか声が聞こえてきた。人か?
「エモノダエモノ。ヒサシブリノショクリョウダ」
「……へ?」
森から現れたのは額に角が生え、全身が赤い肌をして服も下を隠すような布切れだけだったがこいつは……。
「……鬼……だと?」
「ソウダ。オレハオニダ。ソレヲオマエがキイテドウスル? オマエはオレノハラノナカニイクンダカラナッ!!」
「うわッ!?」
俺は鬼に左腕を掴まれて持ち上げられた。
「この……野郎ッ!!」
俺は右足で鬼の頭を蹴るが鬼はケロっとしていた。
「ガハハハ。ニンゲンノオマエニヤラレルオニジャナイ。サァクワレロッ!!」
「ーーーッ!?」
鬼が俺の左肩にかぶりついた瞬間、俺は悲鳴をあげた。
しかし、鬼は目を見開いて俺を地面に投げ捨てた。
「コ、コレハレイリョクッ!! キサマハナニモノダッ!?」
「あぁ?」
鬼が何を言っているか分からない。レイリョク? 何だそれは?
「クウノハヤメダ。コロシテヤルッ!!」
鬼がこん棒を持って振り上げた。これはヤバイな……。
「シネェッ!!」
こん棒が降り下ろされた瞬間、俺は目を瞑ったがこん棒が降り下ろされなかった。
「……?」
「グゥアアァァァ……」
鬼は心臓を貫かれていた。しかも刀や矢ではなかった。
「……穴? 貫通しているのか?」
鬼は既に息絶えていた。その時、後ろの草むらから音がした。
「大丈夫だった?」
「……巫女?」
草むらから現れたのは巫女だった。しかも巫女の手には銃(火縄銃っぽい)を持っていた。
「珍しい服装ね。もしかして外の人かしら?」
「え? というより此処は一体……」
「自分がいる場所も分からないの? 此処は迷いの森よ」
いや迷いの森よと言われても……。
「取りあえず森を出るわよ。ほら、付いてきなさい」
俺はそう言われて巫女の後ろから後を追うのであった。
そして大体五分程度で森を抜けた。けど、舗装されている道路は無く、砂利道であった。
「此処は一体……」
「だから迷いの森よ。それに妖都までもう少し歩くわよ」
巫女はそう言ってまた歩き始めた。てか妖都って何だ?
「……何だ此処は……」
俺は思わずそう呟いた。砂利道を少し進んで丘を登ったら、眼下に都があった。
「此処は妖怪のための都、それが妖都よ。此方よ」
巫女はそう言ってまた歩き始めた。そして門をくぐって左折して人々が集まる神社に行った。
「おぉ、巫女様」
「依頼はこなしたわよ」
「おぉ、それでは……」
「あんた達の身内が食べた鬼は退治したわ」
巫女の言葉に人々が歓喜を上げたり涙を流した。よく見たらこの人々、頭はちょんまげをしていた。
「そちらのは方は?」
「恐らく外の人よ。迷いこんでいたから保護したのよ」
「それはそれは。貴方も難儀でしたな」
「は、はぁ……」
人々の言葉に俺はそう返すしかなかった。
「それじゃあ巫女様。これが……」
「ありがとね」
巫女が袋を貰った。ジャラジャラ言っているから多分依頼料だと思う。
そして人々は神社を出るのであった。
「ほら、お茶よ」
「あ、これはどうも……」
中に入って居間で正座している巫女さんがお茶をくれた。
「自己紹介がまだだったわね。私の名は近衛命よ」
「さっきは危ないところをありがとう。俺は神崎三笠だ」
俺は近衛に自己紹介をする。
「ところで近衛、何個か質問があるんだが……」
「良いわよ。それと命でいいわ」
近衛…じゃなくて命はそう言った。
「それでこの都は一体何なんだ?」
「そうね、外の人なら妖都が分からないわね。妖都はさっきも言ったけど妖怪のための都なのよ」
命はそう言った。妖都を作る切っ掛けは江戸に将軍が幕府を開いた時だったらしい。
江戸の将軍は妖怪の討伐を強化して妖怪を駆逐し始めた。その時に、一匹のぬらりひょんが「妖怪を守るために妖怪の都を作ろう」と言い出したらしい。
そして妖怪達は都を建設したが、人間を食べられない事に不満が募り始めたため多くの人間を拐って都で食べたり働かせて作物を作らせた。
人間側も黙ってはいられず、巫女を中心とした対抗力を出した。
妖怪達は人間の抵抗に驚きつつも巫女の対抗力を承諾したのだ。
「成る程、そうだったのか」
「まぁ昔に比べたら人間が妖怪に食べられる事は少なくなってきたけどね。ところで三笠、傷はどうしたの?」
「傷? そういやさっき鬼に噛まれて……あれ?」
肩を触るが、そこに傷は無かった。破けた跡はあるけど傷は本当に無かった。
「……治癒してあるわね……って三笠、あんた霊力があるじゃない」
「霊力? 何だそれは?」
「霊力は巫女が宿る力よ。霊力があるから巫女は戦えるのよ」
命はそう言って俺にさっき使用していた銃を渡した。持つとズッシリしている。
「これは霊力を吸収して銃で撃てるようになっているのよ。どうやって霊力を吸収してるかは知らないけど」
「ふ〜ん、そうなのか……」
俺は命に銃を返した。
「暫くはこの神社で暮らしなさい」
「元の場所に帰れるのは……?」
「無理ね」
バッサリ捨てられた……。まぁ会社行かなくていいかな。
そして数日間、俺は命と一緒に神社で過ごしていた。
「じゃあちょっと妖怪退治してくるわ」
「分かった。気を付けてな」
命はそう言って神社を後にした。今回も鬼退治らしい。
「さて、境内の掃除でもするかな」
俺は境内の掃除を始めた……が、俺は嫌な予感がしていた。
「……ちょっと行くか」
俺は護身用にと命から貸してくれた日本刀を持ちつつ妖都から出て迷いの森へと向かった。
「はぁ……はぁ……」
「ゲハハハ、オマエニヤラレタモノタチのカタキウチダッ!!」
……周りには数匹の鬼。銃で撃とうにも左手が折れてるし……万事休すね。
……三笠の奴、一人で生きていけるかしらねぇ。
「命ォッ!!」
「え……?」
「ギャアッ!!」
その時、三笠が鬼を斬りながらやってきた。
「ど……どうして此処に……」
「嫌な予感がしていたからな。怪我は……酷いな」
「グゥ……ニンゲンノクセニィ……」
鬼達が一斉にこん棒を構えた。俺は落ちてる銃を拾う。
その時、脱力感があった。多分、銃が霊力を吸収しているのだと思う。
「三笠……撃てるの?」
「分からん」
俺は命にキッパリとそう言って鬼に照準して引き金を引いた。
銃口からレーザーのような光線が出て、鬼二匹の身体を貫いた。
「……嘘……」
後ろにいる命は多分驚いている。俺は後ろを見てないしな。
「コ、コノヤロウッ!!」
他の鬼が襲ってきたが、そいつもレーザーで身体を貫かせた。
「ダ、ダメダ。ヒキアゲルゾッ!!」
生き残りの鬼達は屍の鬼を置いて森の中へと逃げた……ふぅ〜。
「……どうしたのよ?」
「……今頃になって腰が抜けた……」
「……ぷ、アハハハ」
俺の言葉に命は笑った。
「ねぇ三笠……その霊力、妖怪退治に使ってみない?」
「ん? そうだなぁ……」
会社で怒られるよりマシかもな。
「使ってみるよ」
俺の言葉に命は微笑むのであった。
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