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第八話 ロビンソン・クルーソーもどき

海っていいよね。広いから

空っていいよね。青いから

海と空っていいよね。広くて青いから

 ボートの上での談笑は、絶える事なく続いていた。

「そんでね、そん時風画が叫んだんだよ『ウニ一丁!』ってね。そしたら、今度は槍牙が『はい、喜んでー!』とか言い出してさ。マジで笑えたね」

 今の話題は『合宿の夜』である。

「そうなんだ。二人ともおもしろいね」

「うん、あれは笑えた。あーあ、録音しとけばよかった」

 進矢は名残惜しそうに言って、伸びをしながら仰向けになった。

 プツッ。

 進矢は自分が仰向けになった瞬間に、何か張りつめられた物に穴が空くような音がしたのを聞いた。その音が悪魔の所業なのか、天使の恩恵なのかは、まだ誰も知らなかった。


「くそっ。まさか流されるとは……」

 進矢と裕美の居なくなったビーチで、風画は狼狽した。

「どうしよう……」

 美奈は今にも泣き出しそうである。

「お願い、二人とも無事でいて」

 沙輝は体の正面で手を組み目をつむる。

「迂闊だった……」

 槍牙は海原を見た。高くうねる波は、まるで、進矢達を押し流したことを誇るかの様に寄せては返すを繰り返していた。


「ごめんなさい!」

 進矢は裕美に頭を下げた。彼の聞いた音とは、ゴムボートの船底に穴の空いた音だった。二人が乗っていたボートは、砂場の湾から岩礁だらけの入り江に流されてしまい、浅い所にあった岩によって船底に穴が空いてしまったのである。ボートは浸水の影響で敢え無く沈没し、二人は近くの大きな岩の上に這い上がり、そこで助けを待っているという次第である。

「本当にごめん!」

 進矢は今にも土下座しそうな勢いだった。

「……」

 裕美はしゃがんで両手の手のひらで顔を覆いうなだれる。怒っているのか泣いているのかさえ分からなかった。

 進矢は裕美の様子を伺った。どちらともとれない様子の裕美に、進矢は謝ることしか出来ず、またもや、深く頭を下げた。

「あ、あの……」

 進矢は恐る恐る口を開いた。

「あのさ……、怒ってる?」

 しばしの沈黙。両者の空気がみるみる悪くなっていくのを察したかのように、裕美が口を開いた。

「別に……、怒ってる訳じゃないけど……」

 裕美の声は低く、元気がなかった。

「ねえ、飯島クン。ケータイ持って……」

 裕美は顔を上げて進矢を見た。進矢はバミューダパンツ一丁で、それ以外は何も着ていない。

「……る訳ないよね……」

 裕美は再びうなだれた。

「高木ちゃんは?」

 進矢がそう訊くと、裕美は首を横に振った。

「ここ……、どこなんだろ……」

 裕美は立ち上がって辺りを見回した。どれだけ目を凝らしても、元いた砂浜は見えず、人気のない山林が陸地側に控え、海に船らしき物はなかった。

「あの岬の向こう側かな……?」

 裕美はそう言って、海に突き出た岬を指差す。

「ああ、きっとそうだろうな」

「どうする……?」

 裕美は不安げに訊いた。

「……」

「……」

 両者を沈黙が包む。

「まあ、きっと風画達が気付いて、すぐに助けが来るでしょ」

 進矢はそう言って、その場にどかっとあぐらをかいた。

「なるようになるさ」

 進矢は裕美を不安にさせたくない一心で、一生懸命に笑顔を作って見せた。

「うん、きっとそうだよね」

 進矢の笑顔を見た裕美は、自然と顔をほころばせた。

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