第四話 男らしさ其の壱
白狼海雅 ♂ 身長…184センチ 体重…80キロ 風画の兄。性格は風画に似て快活。風画と違う点は、リーダーシップがないこと。現在、大学4年生。
風画たちは、どうすれば良いかとあれこれ思案していた。
風画と槍牙がヤンキーに扮して祐美に絡み、それを進矢が追い払い、二人が逃げ出したところで告白、といった定番のシナリオが案として浮上したが、美奈と沙輝の猛反対を受け、敢えなく却下された。
ほかにも色々な案がでたが、やれ『ロマンティックじゃない』とか『普通過ぎる』等と批判された。
結局、四人が出した結論は、『二人に任せる』だった。
さて、今度は『どうやって、二人に任せられるか』という議論になったが、『二人っきりにさせる』という意見で決着した。
「チッ。せっかく乗り気だったのに。これじゃあ全然面白くない!」
腰まで水に浸かり、美奈の入る浮き輪を押しながら、風画は舌打ちして愚痴った。
「でも、いいじゃん。結局、私たちも二人っきりになれたんだし♪」
「まあ、確かにそうだな」
風画はそう言うと、いきなり、かなり激しいバタフライを始めた。
「ふふ。一番喜んでるのは風画クンじゃん♪」
美奈は笑顔で呟いた。
沙輝は海面を見詰めていた。
彼女が今いるところは、海水浴場の遊泳エリアギリギリのところだった。少し先には、波消しブロックが積まれている。
何故、そんなところにいるかというと、槍牙に連れてこられたのである。槍牙は沙輝に、「ここで待っててね」と言い残して海に潜った。
しかし、槍牙が潜ってから早二分弱。彼が上がってくる様子はない。
「大丈夫かな?」
沙輝が槍牙の身を案じていると、沙輝の視界に謎の管が現れた。
「何あれ?」
沙輝が疑問に思った瞬間、管から水が噴き出した。
「えっ!?」
沙輝は突如現れ水を噴き出す管に恐怖さえ覚えた。
が、その恐怖は次第に消え、いつしか安堵に姿を変えていた。
「遅くなった」
謎の管は、槍牙のシュノーケルだった。彼は両目が繋がったタイプの水中メガネにシュノーケル、上半身のみのウェットスーツに軍手、足ヒレに先がくの字型の金属製の工具、といったいでたちだった。
「見ろ。近海物の天然サザエだ」
槍牙は自慢気に手にした網袋の中を見せる。中には拳大ほどのサザエが五〜六個収まっていた。
「どうしたの? これ?」
沙輝は目を丸くして訊いた。
「あそこのテトラポットのところから捕ってきた」
槍牙は得意気に言い、波消しブロックの山を指差す。
「良いの? こんなことして?」
通常、海水浴場の入り口などには、『海産物の採取禁止』といった旨の看板が立ててあり、ここも例外では無かった。
しかし、槍牙に悪びれる様子は無く、むしろ、当たり前の事の様に言った。
「見つからなければ大丈夫さ。それよりも、もうちょい深い所にアワビがいる。七輪と味噌と塩を持ってきたから、後で捕れたてを食べよう」
槍牙はそう言うと水中メガネを掛け直し、再び、海中へと姿を消した。
「槍クンて……、もしかして海人?」
沙輝は槍牙が消えた場所をじっと見詰めながら、小さくこぼした。
ビーチで祐美と二人きりになった進矢は、自分の胸の高鳴りを感じていた。
進矢の瞳は「前は振られたけど、祐美の事は諦められない」と言っている様だった。
(このままじゃダメだ。俺が動かないと)
進矢は覚悟を決めて祐美を誘おうとした。
しかし、進矢が口を開こうとした直前に、祐美が進矢の肩を叩く。
「ねえ、あそこにいる人追い払ってよ。何か怪しくて……」
祐美はそう言って海とは反対の方向を指差した。
進矢がその方向に目をやると、明らかに怪しい男がたたずんでいる。
「あぁ。何だありゃ?」
男は痩せ型の体型でリュックを背負い、手にはビデオカメラらしき物を持っている。海だというのに、明らかに怪しい。
「ね。怪しいでしょ」
進矢は確信した。あれは『盗撮犯』だと。祐美に良いところを見せたい一心の進矢は、迷わず立ち上がった。
「オイ。てめえ何してんだ!」
進矢は強気だった。両者の優劣は火を見るより明らかだ。
「いや、あの……。僕は別に……何も……」
男は進矢の気迫に押され、かなりおどおどしていた。
「うるせえ! さっさと失せろ!」
進矢はそう言って、男の肩を押した。
「うわあ!」
進矢はあまり強く押したつもりでは無かったのだが、男がひ弱なのか、怯えていたかのどちらかだろう。男はその場に尻餅をつく。
「そ、そんなつもりぢゃないのにいぃぃぃぃ!」
尻餅の直後、男は猛ダッシュしてその場を去った。
後で分かった話だが、カメラの男は映研部の部員で、その日は、純粋に海を撮りに来たらしい。ちなみに、男のあだ名は『ペンキ男』というらしい。
何はともあれ、進矢は男らしさをアピールできたのである。