第三話 カミングアウト×当事者×蚊帳の外
高木祐美 女 身長…164センチ 体重…55キロ 女子バスケ部の副キャプテン。中の上くらいのルックスで、それなりにモテる。
着替えを済ました一行は、各々の準備を始めた。女性陣は、自ら持参した浮き輪なぞを鞄のなかから取り出す。
風画はそれを見逃さなかった。すかさず、進矢の肩に手を掛けて耳打ちする。
「進矢。ここだ。ここで高木ちゃんに良いところを見せろ」
他のメンバーに背を向けた恰好で言った。
「上手くやれ!」
風画は進矢の胸を左の拳で叩いた。
「お、おう」
突然の一発に怯みながらも、進矢は力強く返した。
進矢は勇み足で祐美に近づいた。
「て、手伝おうか?」
緊張のせいか、進矢は少しかんだ。
しかし、祐美はそれをさして気には留めなかった。
「え、やってくれるの? ありがとう」
笑顔で浮き輪を差し出す祐美。
何かと訳ありなので、進矢は祐美の笑顔を直視できなかった。
(やっぱ、かわいい……)
進矢は心の中で呟きながら、浮き輪を一生懸命に膨らませる。
「いいか、みんなよく聴け」
浮き輪を膨らます進矢と、それを見守る祐美と距離を取る形で、風画が切り出した。
「進矢の恋を成就させてやりたい。頼む、協力してくれ」
風画は顔の正面で両手を合わせ、深々と頭を下げた。
「あのさぁ……。ちょっといいかな……?」
そのおり、美奈が申し訳なさそうに口を開いた。
「私からもあるんだけど。実はね、進矢クンが祐美に告ったこと、知ってるんだ」
美奈が言うにはこうだった。
祐美が進矢に告白されたとき、祐美はどう答えて良いかわからず、とっさの判断で進矢の申し出を断ってしまったのである。祐美は進矢と付き合うことに何ら抵抗は無く、むしろ、進矢の気持ちを棒に振った事に対して後悔しているらしい。機会があれば謝りたいのだが、気まずくて中中切り出せないらしい。
ちなみに、今回の遠出は進矢に謝りたいと思っている祐美の発案で、本当の主催者は祐美である。
「なるほど、そういうことか」
美奈の話を聴き終えたところで、槍牙が言った。
「そうなの。そういうことなの。だから、私からもお願い、祐美に協力してあげて。あの娘、結構内気なところがあるから……」
美奈は口籠もった。
そのおり、風画が口を開く。
「よし、わかった。つまり、俺たちが協力して、二人の仲を取り持ってやれば良いんだな」
「うん、そう」
美奈は即答した。
「じゃあ、みんな。二人の恋を成就させっぞ!」
『おおー!』
一同は掛け声と共に、右腕を空高く突き出した。
祐美はその掛け声を自分のための掛け声だと解釈し、心の中で感涙した。
(ごめんね。みんなありがとう)
進矢は浮き輪を膨らますことに必死になり、掛け声はおろか、頬を膨らました真っ赤な顔の自分にすら気付いていなかった。
滝川沙輝 女 身長…168センチ 体重…59キロ ロングヘアーと低音のハスキーボイスが特徴。かなり大人びた外見と性格の持ち主。槍牙とは似た者同士なので、かなり仲の良いカップルである。