第一話 海へ!
前書きとあとがきを使って、キャラクター紹介をします。 白狼風画 男 身長…198センチ 体重…108キロ バスケ部のキャプテンを務める高校二年生。スポーツ万能で成績優秀、ワイルド系のイケメンで、かなり明るい性格。絵に描いたような、リーダータイプなので、男女を問わず人気である。美奈の彼氏。
「何故、姉さんを殺したー?」
夏休み中の教室に響き渡る怒声。
声の主は包丁を手にしており、今にも刺し殺す勢いである。
「うあああああ! 姉さんの仇だああ!」
男は包丁を腰だめに構えて、目の前の相手に突っ込んだ。
「ごぶっ」
刺された男は血を吐きよろめく。
「畜生! お前を殺しても、姉さんは帰って来ないんだー!」
刺した男は、返り血を浴びる中、意味のない復讐を悔いた。
そのおり、刺された男は薄れ行く意識の中で立ち上がり、最期の言葉を放った。
「君の姉さんは死んでいない」
「えっ!」
余りに突然の告白に、刺した男は包丁を落とした。
「嘘だ! 俺は姉さんがお前に崖から突き落とされるところを見た!」
「僕は、君と、本当の勝負がしたかっただけなんだ。これからは、姉弟仲良く暮らすといい……」
刺された男はそう言って事切れた。
ガラガラガラガラ。無機質とは言わないまでも、どことなく愛想のない教室のドアが開く音。
「こーんにーちは!」
教室に一人の女が入ってきた。
「ね、姉さん」
刺した男は女を見た。
「え? どうしたの」
戸惑いを隠せない女。
その直後、大柄の男が割って入る。
「あー、何が『ね、姉さん』だ。妙なアドリブ入れんなよ」
刺した男の戸惑った口調のモノマネをしつつ、大柄の男は彼の頭の平手で叩く。
「風画クン。何やってんの? またあの続き?」
混乱してる読者がいるといけないので、ここで諸々の説明をすることにする。
大柄の男は白狼風画といい、公立高校の生徒である。続いて刺した男は飯島進矢といい、風画とは同級生である。次に刺された男は藤樹槍牙といい、風画とは幼稚園からの仲である。最後に、教室に入ってきた女は河合美奈といい、風画の彼女である。ちなみに、美奈の言った『あの続き』が気になる方は、『シネマ七日間地獄』の閲覧を推奨します。
閑話休題。
「まあね。暇だったからさ」
風画はさらりと答えた。
「そうなんだ」
美奈は風画と同じように、さらりと返した。
「でも。ちゃんと後片付けしないとダメだよ」
美奈に言われて、風画は後ろを振り返る。
見ると、血の代わりに使った絵の具が至る所に撒き散らされていた。
「まあ、その辺は気にするな」
風画はそう言って、美奈の肩に手を置いた。
「で、どうかしたの?」
風画は美奈に訊いた。 美奈はすぐさま答えた。
「あっ、うん。女バスのみんながね、『今度、男バスと一緒にどこか行かない』って話になってね、それについて聞きに来たの」
ここにいる四名は全員バスケ部である。
「ああそう。どこにする?」
風画は首だけ振り返り、進矢と槍牙に訊いてみた。
「俺は別にどこでも良いが」
槍牙は持ち前の渋く深みのある声で言った。
「俺も。そういうことは風画に任す」
進矢は無責任に言った。
しばし、室内を支配する沈黙。思案する風画。
そのおり、風画の携帯が鳴った。
「おっ。ちょっとごめんね」
風画はそう言って一同に一礼すると、足早に教室を後にした。
「あれ。兄貴からだ」
風画の携帯には、風画の兄の名が表示されていた。
「もしもし」
風画は廊下で電話に応じる。
『よお。てめえの兄貴様だ。久しぶりだな、風画』
携帯電話から発せられる声の主こそ、風画の兄・白狼海雅のものだった。
「おう。どうしたんだよ、正月にも帰らないで」
『悪い悪い。サークルの付き合いでちょっとな』
「サークル? 何のサークル」
『ああ。旅行系のサークルでよ、正月は真冬の海に行ってた』
「あっそ。で、何の用?」
『ああ忘れてた。次の日曜に家に帰ろうと思ってんだけど、いいよな?』
「好きにしな」
『ん。じゃな。我が親愛なる弟よ』
風画の兄は、わざとらしい口調で電話を切る。
風画は電話をしまうと、またもや足早に駆け出して教室へと向かう。
教室では、行き先をどうするかという議論が侃々諤々と繰り広げられていた。
「軽井沢とかどう? 涼しくていいよ」
「涼しいだけだろ。却下」
「進矢はいつも却下してばかりだな。たまには意見を出したらどうだ」
「えーと……」
槍牙に指摘されて口籠もる進矢。
「!」
どうしようかと混迷する進矢は、教室に入ってきた風画に気付いた。
「俺は風画と同じ」
進矢は巧みに逃げた。
「風画。どこがいい?」
槍牙にそれを咎められる前に、進矢が風画に訊いた。
風画は一瞬戸惑ったが、すぐさま口を開いた。
「うーん……。海行かない?」
風画がそう言った理由は単純である。ついさっき、『海』という単語を耳にしたからである。
二秒間の沈黙の後、その意見は採択された。
藤樹槍牙 男 身長…186センチ 体重…89キロ バスケ部の副キャプテンで、風画の幼なじみであり、ライバルでもある。眼鏡を掛けたオールバックが特徴で、私服を着ると、レイバンのサングラスを掛ける。深く渋みのある声が大人びた雰囲気を醸し出し、言動も渋くてクール。蘊蓄に明るく漢字にも詳しい。意外に優しい性格の持ち主。コーヒーと動物好き。