辺境の三年――灰の朝
灰岩辺境で、レオンハルトは十二本目の浅い溝を見つけた。記録に残る魔法は普通、一つの属性だけを帯びる。ところが《ケルベロス》の痕跡は六つに分かれ、しかも同じ一点から始まっていた。
この区間では、食料も庇護もない北辺で、生き残るための観察を覚える。周囲は《ケルベロス》を便利な火力として数えたが、レオンハルトは同意しない。彼にとって六銃口は褒美ではなく、極限まで追い詰められた時だけ現れた生存手段だった。
冬と飢えが判断を急がせても、国王アルディスは使用条件を変えなかった。領土を奪うためには使わない。国境を越えて追撃しない。人間や魔獣を試射の標的にしない。王前で能力を示した時も、防具を着せた案山子を十体並べ、それ以外を射線から外した。力を知るために命を使えば、最初から守る国ではなくなる。
近衛長セインは威力だけを報告書へ書こうとしたが、王は撃たなかった時間も記せと命じた。六属性を同時に放てば、鎧も障壁も単一属性の対策では耐えられない。だからこそ重要なのは、何を破壊できるかではなく、どこで止められるかだった。レオンハルトは六属性を一つずつ確かめるため、呼吸と銃口の回転を一つずつ合わせた。
訓練の終わり、地面には反動で沈んだ踵跡が残った。臣下たちは成長の証と喜んだが、二人だけは黙った。六銃口が一組増えるたび、守れる範囲と同じだけ、誤った一射が奪う範囲も広がる。最終形が六組ではなく、六銃口を十組重ねた六十銃口だとすれば、国家すら一人の感情に耐えられない。
「私は武器か」
「違う。武器にされぬよう、私が王でいる」
短い答えのあと、レオンハルトは次の訓練位置へ歩いた。第13話の記録には命中数より先に、民間被害なし、国境越えなしと記された。




