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日和の国の中瀬さん  作者: 小箱甘味
【第一章】日和国の一幕

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第一節第4話 『匿名希望』

(店長が心配していたの、こっちだったかもしれんな……)


 こんな面倒な事を起こした奴は、あの黒髪ポニーテールの女性に切り捨て御免された。

 では、切り捨て御免された結果残ったのは。


 人質にされた日和国民達と観光客。

 名も無き犯罪者集団を切り捨てた、推定ナイトマフィアの構成員二人組。

 エンブレイス警察。それも、恐らく事件対応局事件対応課。総勢三十名越え。

 死体の山。


 面倒な事極まりない状況である。

 エンブレイス警察は人質である日和国国民が居る為、迂闊に動けない。

 ナイトマフィアは人質の中に庇護下もしくはナイトマフィア構成員が居る可能性あり。前者ならば隠して二人で状況を打破する必要があり、後者ならばナイトマフィア構成員と一緒に警察を相手取る必要がある。

 人質に関してはどうしようもない。動けない。動いたら共犯、もしくは敵対者としてどちらか、もしくは両方から攻撃される必要がある。


 そこまで考えて、思考を止める。


 だって、どうあったとしても関係ないしな。


 どう転んでも面倒だし、落ち着くのには時間かかるだろうし。

 そうであるならば、戦略的撤退と言いますか。バックレた方が絶対良いんだよな。


 眼鏡をそっと外す。一見すると何の変哲もない眼鏡だが、実際は結構な優れもの。

 その分お値段もお高め。これ一つで大損害。


 別に、眼鏡は制御用ってだけで、封じる訳でも何でもないのだが。

 でもその絶妙な塩梅が素晴らしいと言いますか。


 一度、眼鏡を外さず神苑天稟を使った時、警察や裏社会、あと何故か医師に勘だとか何だとかで見破られたりした事がある。

 本当は、外したくない。

 ミスると記憶どっか行っちゃうし。

 もしそれで眼鏡まで無くなったら?

 怖いも怖い。日和円が私の懐から更に出て行ってしまう。


 力を抜いていく。そして何も考えない。

 体が、心が、消えていく。

 何かに同化するように、それとも別の理由か。

 分かんないけど、兎に角消えていく。



 虚無の果てに、色は無く。虚無と成りて、我は無く。

 しかし意思なき傀儡へとなるには都合が悪く。

 故に、制限を設ける。

 ただ無意識の海に沈み込め。

 虚無に境界を引き、いざしずめ。

 『虚無(きょむ)』選択部分術式。

 『匿名希望(とくめいきぼう)』。


 

 最後に、聞こえたのは一体なんだったのだろうか。 

 確かに何か聞こえた気がしなくもないが。

 それを聞くには些か、今の私に、   が無い。
















「あらあら、遅すぎますねぇ。鈍間な事この上ない」

「……相変わらず血の気の多い連中だな。血まみれじゃねぇか」

「ぶるぶる震えてる奴らもいる……。外の方たちですか」

「……その様子だと、交番の狸の方か。あのタレコミ。お陰でお怒りだよ」

「はっ。なら、交番か警察署に襲撃してみるか?」

「HSAT課やいかれ検非違使が来るだろ。……たかがあの程度のタレコミ程度ではやらねぇよ」



 誰も気付く事は無かった。

 エンブレイス警察もナイトマフィアも、人質も。

 確かに居る筈なのに、確かに存在していない。

 開かれた扉代わりの野次馬の壁をそのまま通り過ぎて、あの小癪で愚かな鼠のかつての使いが待つ店まで一直線に進む。

 そこに何があっても気にせず進む。

 生命体であろうと、何であろうとも。

 それが障害になる事なんてない。

  の前では全ては無意味。

 実態を持たない存在が、実態に頼りっきりの現実に憚る事も無ければ、防げる事など無く。


 お使いから四時間後。

 一時間も経過せずに終わるお使いは、三時間も余計に超過して正午頃。

 中瀬は帰る事が出来た。

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