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第2話 見過ごされてきた村

第2話は、

名もなき辺境の村の日常と、

その「歪さ」が見え始める回です。

その夜、私は領主館と呼ぶにはあまりに質素な建物で眠りについた。

石造りの壁は冷たく、寝台は硬い。

それでも、不思議と目はすぐに閉じた。


――翌朝。


差し込む朝日で目を覚ますと、真っ先に窓を開けた。

遠くで鶏の鳴き声が響き、村がようやく息をし始めたように感じられる。


持参していたパンとチーズを少しだけ口に運び、簡単に朝食を済ませた。

私に付き従うメイドなどいない。

身の回りのことは、すべて自分でやるしかない。


「よし。まずは村の視察と、状況確認ね」


誰に聞かせるでもなく呟き、簡素な外套を羽織って外へ出た。


村の中を歩くにつれ、昨日は見えなかった現実が、より鮮明になっていく。

家の壁に走るひび割れ。雨漏りしていそうな壊れた屋根。

井戸の低すぎる水位。修繕されないまま放置された農具。


どれもが、この村が限界に近いことを静かに訴えていた。


村人たちは私に気づくと、一瞬だけ動きを止め、すぐに視線を逸らす。

話しかけてくる者はいない。


――それでいい。今は、そんなものよね。


(信用は、こちらから取りに行くもの)


村の中を歩くにつれ、違和感は少しずつ、しかし確実に積み重なっていった。


まず目につくのは、人影の少なさだ。

いや――正確には、大人が少ない。


作業をしている男は数えるほどしかおらず、畑に出ている者もまばら。

女たちは井戸や家の前で何かをしているが、その動きは鈍く、会話もほとんどない。


代わりに、やけに多いものがあった。


子どもだ。


家の軒先、壊れかけの柵のそば、道の端。

年の頃は五、六歳から十歳前後。

赤ん坊を背負っている子もいる。


遊んでいるわけではない。

ただ、座っている。

ぼんやりと、何かを待つように。


(……多すぎる)


感覚的な印象ではない。

数として、明らかにおかしい。


子どもたちは痩せていて、頬がこけている。

服は大きすぎるか、小さすぎるかのどちらかで、繕われた跡が何度も重なっていた。

目が合うと、すぐに逸らされるが――その目に、子ども特有の好奇心はほとんどない。


ある家の前では、十歳に満たないであろう少女が、弟らしき幼児に水を飲ませていた。

その手つきは慣れていて、まるで母親のようだった。


「……」


私は足を止め、深く息を吸う。


(この村では、大人が子どもを守っていない)

(子どもが、子どもを守っている)


日常は、最低限の「生き延びる行動」だけで成り立っている。

畑に出る。

水を汲む。

火を起こす。

食べられるものを探す。


それだけで、一日が終わる。


誰も笑っていないわけではない。

けれど、笑顔が“必要なもの”ではなくなっている。


子どもたちは学校にも行っていない。

そもそも、学ぶという概念自体が、この村では遠い。


(……戦争孤児、か)


胸の奥で、言葉にならない推測が浮かぶ。

だが、今はまだ確証がない。


ただ一つ言えるのは――

この村は、未来を育てる余力を、とうの昔に失っているということ。


私は視線を上げ、村全体を見渡した。


「まずは……」


声には出さなかったが、答えははっきりしている。


(食べること)

(生きる体を、取り戻すこと)


それができなければ、教育も、希望も、選択肢も生まれない。


そして――

その静けさの中で、

私はまだ気づいていなかった。


この村にとって、

「見過ごされてきたもの」が、すぐそばにあるということに。

この村は、貧しい。

けれどそれ以上に、

「未来を考える余裕」を失っていました。


何が奪われ、

何が見過ごされてきたのか。

ミア自身も、まだ答えを持っていません。


次話、村外れでの出来事が、

この村の“歪み”を少しだけ浮かび上がらせます。

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