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リシュールと魔法使いの秘密  作者: 彩霞
最終章

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第90話 リヒテル・ターナー

「え?」


 リシュールは信じられないと言った様子で、眉をひそめた。


「リシュは以前、アルトランにある画材屋で、画家の個展の開催日が書かれた広告紙をもらっていましたよね」


 父の話をしていたはずなのに、クモイが突然そんなことを言うので、リシュールの表情はますますいぶかしげになる。


「う、うん……」


「その画家の名前を覚えていますか?」


 リシュールは小さく首を横に振る。

 すると、クモイは暗色のコートのポケットから、あの広告紙を主人に差し出した。

 どうして持っているのだろうと思いながら、リシュールはそれを受け取って紙を広げる。


「『リヒテル・ターナー』……?」


 リシュールがその名を声に出して読むと、クモイは言った。


「そうです。それはリシュのお父さまのお名前です」


 リシュールは広告紙から視線をクモイに移すと、わなわなと右手でひたいを押さえ、動揺どうようの隠せない声で言った。


「ど、どういうこと? だって父さんは売れない画家で……。それにもし『リヒテル』が父さんの名前だったとしても、『ターナー』って、支援者の家柄を示す名前でしょう? まさかそんなことがあるなんて……」


「それがあったのですよ」


「嘘だ……」


 それからクモイは、これまでリシュールが知らなかった父と母のことについて、静かに語った。


 リシュールが孤児院に入ってしばらくしたあと、両親は離婚。


 彼の母親はこの家を去り、父親・リヒテルだけが残った。絵が売れないため、ずっと生活に困窮こんきゅうしていたという。


 しかしその五年後、この土地の管理者である伯爵が、リヒテルの絵に価値を見出し、パトロンとなり販路はんろを作った。すると彼の絵は少しずつ売れ始め、名が知られるようになると、注文を受けるようにまでなったという。


 お陰で、リヒテルは貧困から抜け出したのだった。


「以前にも話しましたが、私は長らく、絵本の挿絵を描いてくれる方を探していました。五十年前に一度失敗しているので、次こそはそうならないようにと思いながら。そしてリヒテル・ターナーという画家を見つけ、ここにたどり着きました」


「そうだったんだ……」


 つまりリシュールよりも先に、父であるリヒテルがクモイと出会っていたということだ。

 クモイは「はい」とうなずく。


「ですが、私が絵を見つけ依頼をしに行ったときには、リヒテルさまは病をわずらっていて、筆がにぎれない状態だったんです。豊かな生活を送れる前までが、あまりにも厳しかったせいでしょう。それと同時に、現実逃避をするため、お酒もよく飲まれたとご自身で話されていました」


「……」


「駄目元で『絵を描いていただきたい』とお願いはしたのですが、案の定、断られてしまいました。『自分が納得するものを描くことができないのに、人に頼まれて絵は描けない』と」


 クモイは言葉を続ける。


「リヒテルさまに断られてしまった私は、諦めるしかありません。仕方なく、別の人物を探そうと思っていたのですが、偶然にも彼が弁護士を使って、一人息子をさがしていることを知りました」


 リシュールは目を見開らいた。


「一人息子って、まさか……」


「そうです。リシュ――つまり『リシュール』さまを捜していたのです」


「でも……何で……?」


「それはあなたさまに、絵画を売って得た財産を継がせるためです」


 ――財産を継がせる?


 リシュールは小首をかしげた。暴力を振り、怒鳴り散らしていた父が、自分に財産を遺そうとしていたことが信じられなかったのである。

 そのためリシュールは、戸惑った様子で尋ねた。


「そんな……。どうして……?」


「『つぐないだから』とおっしゃっていました」


「つぐない……?」


「はい。でも、何故『償い』なのか、私には何もおっしゃってはくれませんでした。ですが、リシュの話を聞いた限り、きっと孤児院に預けてしまったことへの後悔の念があったのではないかと思います」


「そう、なのかな……」


 リシュールはうつむく。

 父親には父親らしいことをしてもらったことはないし、愛情を注がれた記憶もほとんどない。

 そのため、リシュールは父が自分のために何かしてくれるようとしていたことに、戸惑いを隠せなかった。


「個人の話に立ち入るつもりはありませんでしたので、これは私の推測でしかないですが、ベッドに横になるリヒテルさまが、私にリシュへ財産を継がせられるように頼まれたときの瞳には、深い愛情と悲しみが混在しているようでした。気づいたときには、すでに遅かったと思ったのでしょう。それで、私は一度提案をしたのです。『息子さんをさがしたら、財産を継がせるだけではなく、会ってみてはどうですか』と」

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