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リシュールと魔法使いの秘密  作者: 彩霞
第四章 リシュールの絵

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第80話 リシュールの涙

 クモイは一息つくと、話を続けた。


「魔法使い同士の戦いが終わり、人々の生活が落ち着いたころ、マリは私に魔法具のことをたくしました。『非魔法使いの手に魔法具が渡らないようにし、それらが消滅するまで見届けよ』と……」


「……きっと、クモイのことを頼りにしていたんだね」


 リシュールがそっと言うと、クモイは苦い笑みを浮かべた。


「私には、『お兄ちゃんも、私のように魔法に振り回されて苦しんだらいい』と言われているような気がしていました」


 クモイの冷ややかな言い方に、リシュールは眉を寄せた。


「そんな……」


 だが、クモイは困ったように笑うだけで、うなずかなかった。彼は、まだ苦しみ続けなければいけないと思っているのかもしれない。


「……そういうことがあって、私はマリに責められる夢を時折見ます。ですから、もし夜にうなされてしまって、眠っているリシュを起こしてしまったら悪いと思い、寝室で眠ることをけていました」


「そっか、それで……」


 ここに越してきてから、どうして寝室で寝ないのだろうと思っていたのだ。その回答がようやく得られ、小さく笑う。

 その一方で、クモイの遠慮がちなところに心の距離のようなものを感じて、さびしいような気もした。


「気にしなくていいのに」


 するとクモイは、首を横に振る。亜麻色あまいろの髪がさらさらと揺れた。


「ありがとうございます。ですが、これでいいのです」


「どうして……?」


 リシュールが問うと、クモイは窓のほうをちらと向いてぽつりと呟いた。


「……妹のことも、魔法具のことも、私が抱えなくてはいけないことですから」


 その言葉を聞いたとき、リシュールは唐突とうとつに自分がクモイたちと出会ったのは、彼らの凄絶せいぜつな過去があったからこそなのだということに気づいた。


 もしクモイがマントを使ってリシュールのことを調べていなければ、彼はリシュールのことを知ることはなかっただろうし、出会うこともなかっただろう。


 そもそも、彼に呪いがかけられて二〇〇年生き、絵本の挿絵を必要としていなければ、リシュールに出会うこともなかった。


 もちろん、クモイやシルヴィス、マリなどを巻き込んだ魔法使い同士の戦いは絶対になかったほうがいいと思うし、マリの出生しゅっせいの秘密もあまりのひどさに、彼女ではなくても苦しくなるくらいである。


 だが、もし彼らの過去がなければ、自分との出会いもなかったのだと思うと、酷く複雑な思いにられ、気が付いたら瞳からしずくが一つ落ちていた。


「……っ」


 リシュールはクモイに心配かけまいと思い、彼が窓のほうを向いているうちに、そでで涙をぬぐうつもりだったが、雫は次から次へと瞳からあふれ出る。

 すると再びリシュールのほうを向いたクモイは、目を丸くし戸惑い気味に「どうしたのですか?」と尋ねた。 


「何でもない……、何でもないよ……。でも、その……ただ、悲しくて……」


「リシュ……」


 するとクモイが、リシュールのほほに伝った涙を親指でぬぐう。そして「失礼します」と言うと、彼のことをそっと抱きしめた。温かく、安心できるような感覚だった。


「申し訳ありません。どうかお許しを」


「……何でっ、謝るのっ。聞いたっ、のは、僕のほうなのにっ……」


 嗚咽おえつしながら尋ねると、クモイは彼の耳元でささやくように、小さな声で言った。


「本当は、リシュにマリのことを話すつもりはなかったんです。きっと悲しんでくださるだろうと思っていたから……。ですが先ほど、うなされて飛び起きたときに、リシュがいたことが私にとって心強く、つい私と妹について、知っていて欲しいと思ってしまったのです」


「そうなの……?」


 リシュールが尋ねると、クモイがこくりと首を縦に振った。


「聞いてくださって、ありがとうございます。リシュ」


 どこか安堵あんどするようなクモイの声を聞いたとき、リシュールは自分がクモイの悲しい過去に、わずかでも日を差してあげたいと思いながら、彼の背にそっと腕を回し、抱き返すのだった。

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