表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リシュールと魔法使いの秘密  作者: 彩霞
第四章 リシュールの絵

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/95

第79話 兄と妹

 クモイの年齢を考えると、彼の父親がすでに亡くなっているのは想像できる。

 だが、「原因不明」という言葉が気になった。


「リシュは、大陸派遣のことをシルヴィスに聞きましたよね?」


「うん」


「大陸派遣」はスーベル島に住む魔法使いが、大陸の非魔法使いたちの生活を手助けするために始まった制度である。

 だが本当の目的は、学校が「秘法」の研究をするためで、これによって幾人もの魔法使いが犠牲ぎせいになった。


「私の父は、その大陸派遣中に亡くなったのです」


「そんな……」


「父が亡くなったとき私は幼児でしたので、父のことも、そのときのこともほとんど覚えていません。ですが父の死をきっかけに、私の母は学校のことを調べ始め、仇討あだうちを考えました。ですが魔法学校に対して、一人では太刀打たちうちできません。仲間を作る必要がありましたが、学校のことを信頼しきっている人々の考えを変え、協力してもらうには時間がかかります。そのため母が考えたのは、強い魔法使いを作ることでした」


「強い魔法使いを……作る?」


 リシュールはごくりとつばを飲み込んだ。手には嫌な汗がかいてくる。


「そうです。知恵があって、優れた魔法を使う学校の教師たちと一人で渡り合える、強い戦士を生み出す――。その一番簡単な方法が、簡単に申しますと優れた魔法使いの男との間に、子をもうけることだったのです」


「そんな……」


 リシュールは首をそろそろと横に振り、嘘であって欲しいと強く願った。


「マリは、父親となった男からその事実を直接聞いたと言っていましたから、本当なのでしょう。私たちの母は彼と再婚していたわけではないので、再会して話を聞くまで、私もマリも全く事情を知らなかったんです」


「……」


「実際、マリは強い魔法使いに育ちました。ですが、彼女は自分が生まれた理由を知ってしまった。マリがどんなに苦しんだか、兄の私でさえはかり知れません」


「……そう、だね」


 複雑な気持ちがリシュールの中にき上がる。辛いような、苦しいような。だがどこか悲しいような。でも怒りのようなものもある。


 他人であるリシュールでさえそう思うのに、真実を知ったマリがどう思ったのだろうか。


 思いをせてはみたが、とてもではないが想像の度合いを越していて、少しも掴むことができなかった。


「マリには、母に対する怒りがあったと思います。その一方で学校がやっていることに対しての不信感もあったため、自分でも調べて納得した上で、母が望んだように戦いを始めました。その代わり、自分が背負わされた運命や母に道具として使われた辛さや悲しみを、私へのうらみとして押し付けました。具体的に申しますと、母が亡くなったあと、マリは私を自分のこまとして使うようになったのです」


 クモイの表情は暗く、痛みをこらえるかのようだった。妹の気持ちを察したからこそ、その恨みやにくしみを受け取ったのだろう。

 だが、それはクモイの身を引きくような辛さだったに違いない。


 もし、「何て酷いことをするんだ!」と妹を一蹴いっしゅうしてやれば、楽だったのかもしれない。

 だが彼女の事情を知ると、責めることはできなかったのだろう。


「それは、悲しいね……」


 リシュールは精一杯の気持ちで言った。それしか言えなかった。

 クモイは主人の言葉を静かに受け取り、話を続けた。


「私は、彼女の憎しみを甘んじて受けました。どんなにひどいことをされても、彼女のこれまでのことを考えたら構わないと思いました。私自身長らくマリと父親が違うことを知らなかったのです。その上、母が私とマリに対する接し方が違うことにも気づかないでいました。ですから、それに対するあがないもあります」


「接し方……?」


 リシュールが問うと、クモイは「はい」とうなずいた。


「私から見た母とマリの関係は、師弟していのような感じで、母は持てる魔法の知識や技術を全てそそぎ込んでいました。それを見ていた私は、『母は妹のほうに期待している』とか『妹のほうが可愛かわいいのだ』とさえ思っていたのです」


 クモイは力なく笑い、項垂うなだれる。


「でも、違っていました。母は私が戦いに巻き込まれないように、何も話さなかったのです」


 つまりマリには苦労させても、クモイには幸せになってほしいと思っていたということだろう。それをマリが知っていたとしたら、一層クモイに対する風当たりは強くなったに違いない。


 マリがクモイを自分のこまにしたのが、彼らの母親が亡くなってからということであるから、マリはその時期を見計らっていたのかもしれない。

 兄を守るものがいなくなったとき、自分の都合のいいように使うための道具にするために。


「……」


 クモイの母がこのようになってしまったのは、夫が大陸で原因不明で亡くなったためであり、学校がこの一家を闇におとしいれたとも言える。


 だが、そうでなかったらマリは生まれていなかった。


 そう思うと、リシュールの心は、なんとも言えない悲しさでいっぱいになるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ