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リシュールと魔法使いの秘密  作者: 彩霞
第四章 リシュールの絵

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第75話 うたた寝

 リシュールは、店員に見送られながら外に出た。

 いい話を聞いたお陰で胸の当たりは温かかったが、真冬の冷たい風は容赦ようしゃなくリシュールのほほに当たる。


「ううっ、寒い!……早く帰ろう」


 リシュールは紙袋を左のわきの下にはさむと、心なしか足をはずませながら雪道を歩いていった。


 画材屋から家までの道のりは単純である。十字路から左に曲がり、そのまま北に向かえばいい。すると、リシュールたちが住む建物がある坂道が見えてくる。


 そして坂道を上り、借りている建物が見えたころ、リシュールはあることを思い出し、小さな声で独りちた。


「あ、そうだ……。魔法具のことをシルヴィスさんに聞くのをすっかり忘れていた……」


 彼には「ウーファイアの姿」のこと以外に、聞くつもりだったことがあったのである。挿絵として頼まれている「七つの魔法道具の絵」のことだ。


 魔法具にはそれぞれ名前が付いている。リシュールはそれを頭の中に思い浮かべた。


 ・愛をはかる薬

 ・権力のマント

 ・いやしの如雨露じょうろ

 ・導きの白い本

 ・手当の包帯

 ・ひらめきのかんむり

 ・うそまことの光る石


 ここから分かることは、魔法具は「薬」「マント」「如雨露」「本」「包帯」「冠」「光る石」と、どれ一つ同じ形のものがないということ。


 そして、効用も全て違う。

 例えば「愛をはかる薬」ならば「愛をはかる」という部分が、魔法具である「薬」の効用なのだろう。


 そう考えると、「マント」は「権力」をつかさどり、「如雨露」は「癒し」を持っている。「白い本」は「導く力」があり、「冠」には「閃く力」を持っていて、「光る石」には「嘘と真」に関わる力があるということだ。


 ただ一つ、「手当の包帯」だけは、何故この名前なのかが分からなかった。

 包帯は手当てをするために使うものである。それにもかかわらず、どうしてわざわざ「手当」という名前がついているのか、リシュールは少し疑問だった。


 とはいえ、絵本には魔法具の効用の詳しい説明はない。


 そのため挿絵を描くなら効用のことは考えず、単純にそれぞれの形を絵に落とし込む方向でよいとは思っている。


 ただ今から作る絵本は、読んだ人々に対しいまだに見つかっていない魔法具への注意をうながすものである。そのため、気味悪く描いたり、怖い雰囲気にしたりすべきかどうか決めかねており、その相談をしたかったのだ。


 シルヴィスのことなので、会いに行けば話を聞いてくれそうだが、さっき会ったばかりなので近日中に時間を作ってもらうのは、さすがに申し訳ない感じがする。


 挿絵は「時間はかかってもいい」と言われたものの、リシュールはどうしようか悩みながら、自宅のある建物の階段を上り、三階へ着くとドアを開けた。


「ただいま」


 帰ったことをげて玄関に入ったが、クモイの返事がない。


(あれ……? もしかして気づかなかったかな……)


 かぎもかかっていなければ、玄関もほんのりと暖かい。つまり暖炉に火が入っているということだ。

 クモイはその状態のまま出掛けるようなことはしないので、きっと、何かしらの作業に没頭ぼっとうしていて気づいていないのだろう。


 リシュールは「クモイが気づかないなんて珍しいな」と思いつつも、玄関に置いてある敷物の上で、靴の裏を軽くいたあと、彼が普段いる調理場のドアを開けた。


「クモイ?——あれ、いない……」


 だが、そこにクモイの姿はなく、暖炉の火だけがパチパチと心地よい音を立てて燃えていた。


「……」


 調理場にいないとすれば居間か、自室にいるはずだ。


 そう思って調理場に続いている居間のほうを見ると、ラクチュア(=布のかかった柔らかい椅子のこと)に座ったまま、灰汁色あくいろのセーターに、黒のスラックスをはいて、うたた寝をしているクモイを見つけた。


「……!」


 リシュールはそれに気づくと、画材屋で受け取った紙袋を調理場のテーブルに置いたあと、マントや帽子などをそっとはずして椅子いすに置く。そして遠目とおめにクモイの寝姿を、物珍ものめずらしそうにじっと見た。


 クモイは眠るとき、必ずマントの中に入る。これまでも寝室のベッドで寝ているのを見たことがない。そのため、彼の寝姿を見るのは初めてだった。


 ラクチュアに座って寝ているところを見ると、少し休憩きゅうけいするつもりだったのかもしれない。

 そもそも、リシュールがマントを付けて外に出て行ってしまっているので、いつものようにマントの中で眠れなかったというのもあるのだろう。


「……」


 リシュールは静かに部屋を移動すると、自分のベッドから軽い毛布を持ってきて、そっとクモイに掛けてやった。

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