表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リシュールと魔法使いの秘密  作者: 彩霞
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/65

第7話 報酬

「では、家事の代行をするというのはいかがでしょう? 掃除、洗濯、裁縫、料理、何でもいたしますよ」


「何でも……」


 今度の提案は魅力だった。


 リシュールは掃除は得意でも、裁縫と料理は全くできないでいる。そのため、気持ちが動きそうになっていた。


 だが、リシュールにはお金がない。給金も出さないでただ働きさせて自分の願いをかなえてもらうなど、ばちが当たるに違いないと思っていた。


 すると彼の心を読んだかのように、青年は次のようなことを提案した。


「もし報酬のことが気になさるのであれば、私に名前をいただけませんか?」


「名前?」


 意外なことだったので、リシュールはきょとんとする。一方で青年は少し恥ずかしそうに言った。


「実は五十年近く、マントの中でずっと眠っていたものですから、前に使っていた名前を忘れてしまいまして……。できたらいただきたいのです」


 リシュールは目を瞬かせる。確かにそれはお金はかからないなと思った。


 だがその一方で、魔法使いであることは覚えているのに名前を忘れるなんて、思い入れがなかったのだろうか、などとぼんやりと思う。


 とはいえ、名前を付けてほしいというのには困ってしまった。


「そんなこと言っても、僕にまともな名前なんて付けられないよ?……勉強なんかほとんどしてきていないんだから」


「主さまが、呼びたいような名にしてくだされば構いません」


 にこっと笑う青年を見て、リシュールは「名前を与えるということは、そこに関係が生まれることだ」という、いつかお伽噺とぎばなしで聞いたことを思い出していた。


 もし彼と関係を持ちたくないのであれば、名前を与えてはいけないのではないか。そう思う。


 だが、話しているうちに、最初にあった得体の知れない怖さは薄れてきたし、仮にリシュールが願いを断ってしまったら彼は「名無し」のままになってしまう。そう考えると少し可哀かわいそうな気がした。


 それに貧乏で靴磨きしか取り柄のない自分が、彼に名を与え、主人になるだけで喜んでもらえるなら、それも悪くないかもしれないと思った。


「……分かったよ」


 リシュールが折れると、青年は嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます」


 そうなると、せめて人に変に思われず、彼もそれなりに気に入ってもらえるものがいい。


 リシュールは「名前かぁ……」と言って周囲を見渡した。


 目に入るのは、床に置いてある靴磨きの道具に、孤児院を出るときに貰った革の鞄。部屋の中央にある小さな丸いテーブル。そしてその上においてあるランプと、一輪挿し用の花瓶、彼が趣味で描いている風景画のスケッチくらいである。


 どういう名前がいいだろうか、と考えたとき、何となくおもむろに西側の窓を見た。この部屋には、南と西に窓があって、どちらも建物が隣接しているが、窓から上を見上げると空を見ることができるのだ。


 そして今度は、何かに気づいたようにテーブルの上に置いてある数枚のスケッチに目を向けた。その中から、青い空を背景に、灰色の雲が上空へ向かっている様子が描かれているものを取り出してみる。


 ――灰色。


 そして彼は、ふと青年のほうを見た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ