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リシュールと魔法使いの秘密  作者: 彩霞
第三章 もう一人の魔法使い

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第58話 リシュールが決めたこと

「魔法使い同士の戦いは、マリ側——つまり魔法学校に対抗していたほうが勝ったことにはなってる。でも、マリの仲間以外の魔法使いたちはいなくなってしまったから、後始末は俺やクモイたちがになうことになった」


「魔法使いがいなくなってしまった」というシルヴィスの意味深長な言葉に、リシュールは、クモイが出会って最初のころに「数えるほどしかいませんが、魔法使いは今も実在します」と言っていたことを思い出した。


 リシュールは、両手をぎゅっと膝の上で握ると、勇気を振り絞ってシルヴィスに尋ねた。


「それは、その……皆、亡くなってしまったのですか……?」


 二十一年も続いた戦いだ。相当な人が犠牲になったことは、リシュールでも想像がつく。

 だが、彼は首を横に振った。


「もちろん戦死した人もいる。だが、それだけじゃない。『魔法使い』だった人たちを、非魔法使い――つまり、リシュのように魔法の使えない人たちにしたんだよ」


「それは……魔法使いが、魔法を使えなくなる……ということですか?」


 状況がよく分からなかったため眉を寄せていると、シルヴィスは苦笑した。


「まあ、そういうこと。ただ、『どうやって魔法使いじゃなくしたのか』っていうのは、説明すると長くなるから、『ほとんどの魔法使いたちは、魔法使いではなくなった』と思ってくれていればいい。とりあえず俺やクモイを含めて、今生き残っている魔法使いは『魔法具』の管理をしている、俺たちだけ」


「……分かりました」


 きっとこれが話の区切りだろう。

 シルヴィスが話してくれた内容を振り返ると、リシュールはなんだかとても遠いところに旅をしてきたような気分だった。


「あの……シルヴィスさんは、マリさんの仲間だったということは、親しかったんですか?」


 暗い雰囲気を少し変えたくて、リシュールが「大陸派遣」とは少しれたことを聞いてみる。するとシルヴィスはリシュールの傍から離れ、座っていた椅子に戻ると答えてくれた。


「親しかったというか……、俺は彼女の部下の一人で右腕だったんだ。自分で言うのも何だけど」


「えっ、シルヴィスさんが、クモイの妹さんの部下⁉」


 リシュールは目を丸くする。マリのほうが、シルヴィスよりも立場が上ということが意外だった。

 それを察したのだろう。シルヴィスは苦笑する。


「色々あってね。俺はマリの思想に賛同したから共に戦った。クモイもその一人さ。まあ、よく喧嘩もしていたけどね」


 思い返すと、クモイはシルヴィスの前では自分に見せたことのない態度をとっていた。きっと、リシュールには分からない、二人の関係があるのだろう。


「……俺がクモイについて話せるのはこれくらいかな。それ以外の細かいことは、俺にも分からない部分があるから、あとはクモイに聞くしかないけど……、お願いすればリシュになら話してくれるかもしれない」


「……」


 リシュールは少し考えてから、首を横に振った。


「……僕は、聞かないことにします」


「どうして?」


「苦しい思いをしてほしくないから」


 辛い過去を思い出してしまうから、クモイは自分の過去についてシルヴィスに話してもらえるように頼んでいたのだ。


 それがどれほどの苦痛なのかリシュールには想像しえなかったが、きっとクモイのことだ。「教えて欲しい」といえば、リシュールにいらぬ気遣いをさせないように、気丈きじょうなふりをよそおって話すに違いない。本当は痛いだろうに、無理して隠そうとする姿は見たくなかった。


「そうか……。優しいな」


 しみじみと言うシルヴィスに、リシュールは困ったように笑った。


「優しいのは、シルヴィスさんのほうじゃないですか?」


「え?」


 シルヴィスは思ってもないことを言われて、少し驚いているようだった。


「だって、クモイが話せないことを代わりに話すにしても、今の話はシルヴィスさんのことでもあるじゃないですか。シルヴィスさんだってきっと辛かったのに……、それでも話してくれたから優しいなって……」


 すると彼は優しい笑みを浮かべ、首を横に振る。


「そんなことはないさ。俺はクモイと同じ境遇にあるし、生きている目的も一緒。だからクモイができないことは協力するし、逆に俺ができないことはクモイに任せているだけなんだよ。そうじゃなかったら、頼ったり頼られたりしていない。それにさっきも言ったけど、マリが生きていたころは喧嘩ばかりしていたしね。だから俺たちは顔を見合わせたら、意地悪を言い合う」


 共有できる過去がある――それを特別と言うのではないかと、リシュールは思う。だが、彼にとっては違うらしい。


「そういうものですか?」


「そういうものだよ」


 シルヴィスはふっと笑うと「ただね、クモイの幸せは願ってもいるんだよ」と言った。

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