第56話 「大陸派遣」の目的
「つまり、学校の上層部だけが全ての事実を知っていて、駒として使っていた魔法使いたちを動かすために、適当な嘘をついていたってわけさ。最初は学校の息のかかった人間が大陸へ渡り、その土地の中でもスーベル島に近くて作物が育ちにくい村へ行く。魔法使いが村の作物を育てる手伝いをする代わりに、スーベル島の植物――つまり『魔力』を放出する植物を持って行き、栽培をお願いするんだ」
リシュールは、シルヴィスの話にじっと耳を傾けている。
彼はそれを感じて、リシュールのほうを見ると、今度はテーブルの上に組んだ自分の手を見ながら続きを語った。
「その流れができあがると、魔法使いを派遣する。だが、派遣される魔法使いたちは、『大陸の人々を手助けする』という表面上の目的だけしか知らされない。本来の目的は知らないんだ。知らないままに学校に指示された『大陸派遣』の仕事をする。魔法を使って、天気を予報したり、土を豊かにしたり……。それを行うだけで十分に村人たちのためになった。そして、魔法使いたちは村人たちの信頼を得るようになり、さらに植物の栽培がしやすくなる」
「……」
「そして村人たちは『魔法』という不思議な力に頼るようになっていく。村人たちは魔法使いに依存するようになり、『大陸派遣』の魔法使いたちも頼られて悪い気はしないから、自分たちは『人のためにいいことをしている』と思って、村人たちのために尽くすようになる。そういう循環が作られていったんだ」
学校が仕組んでいたことに対し、リシュールは恐れおののいたが、一つ疑問が浮かんだ。
「ですが、『魔力』のない土地に行くと、魔法使いが死んでしまうのではありませんか? そうなれば、すぐに誰かが問題だと指摘するような気がするのですが……」
魔法使いに必要な「魔力」がない大陸。
そこへ行ってしまえば、魔法使いたちが死んでしまうのではないかとリシュールは思った。そうなれば、誰かがそれを「おかしい」と言うだろうし、そもそも「大陸派遣」という仕事すらも成り立たなくなるはずである。
するとシルヴィスは「いいところに気づいたね」と言って少しだけ笑みを浮かべ、その理由を教えてくれる。
「『魔力』のない土地に行ったからといって、すぐに死ぬわけではないんだ。体内にある『魔力』が枯渇するまでは生きていられるから、ある程度の期間大陸で働いて、そのあとスーベル島に戻って来れば『魔力』が回復する。そうすれば誰にも気づかれない。その上、魔法使いは『魔力』がどこにでもあることが当たり前だと思っているから、大陸が『魔力のない場所』だと疑うこともない」
「そんな……」
「一方の大陸では、魔法使いではない人たちに『魔力』による体調不良が起きていた。だが、これも原因を突き止める人たちはいなかった……」
そう言ってから、シルヴィスは首をゆっくりと横に振って言葉を続けた。
「いや、原因が、スーベル島から持ち込まれた植物であることに気づいた魔法使いたちや村人もいたんだが、学校の息のかかったものによって消されてしまったんだ」
リシュールはその悲惨さに顔をしかめる。
「酷いですね……」
「だが、隠していることっていうのは、いつか明るみにされるものなんだよ」
リシュールはそれにはっとする。
「もしかして、マリさんが……」
彼女は「魔法学校」のことを調べていたと言っていた。ということは、何か行動を起こしたのではないかと、リシュールは思ったのだ。
それに対し、シルヴィスはうなずいた。
「ああ。彼女は俺が今語ったことを、自分で調べて突き止めたんだ。でも、私利私欲にまみれた者たちと、話し合っても無駄だと思ったのだろう。彼女は五つの『魔法具』を学校から盗んだ」
「……あれ?」
そのときリシュールは、クモイに見せてもらった絵本の内容を思い出していた。
登場した魔法具は七つ。
そして絵本の内容は、現実と繋がっているので、その魔法具も存在している。
だが、シルヴィスの話では現在五つは把握しているが、二つの行方が分かっていない。つまり、魔法具の数はこれで七つ。
さらに、絵本の原稿では、ウーファイア――つまり、クモイの妹であるマリが、魔法具を作ったことになっていたはずだ。
リシュールは、どういうことだろうかと眉をひそめた。
「あの……絵本の原稿にあった魔法具っていうのは……七つあって、マリさんが作ったものだったと思うんですけど……」
シルヴィスは「うん」とうなずいてから、言葉を続ける。
「絵本ではそう書いてある。だが実際には、彼女が作ったものじゃない。絵本に登場した魔法具は全て、学校が作ったものだ」
「でも、だったら何故それを書かないのですか? マリさんは魔法具を作っていないのに……」




