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リシュールと魔法使いの秘密  作者: 彩霞
第三章 もう一人の魔法使い

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第54話 濃い灰色のマントの秘密

 クモイの話では、「魔法具」は危険なものではなかったか。

 それを思い出したリシュールは、椅子からそろそろと立ち上がり、「魔法具」の一つだというマントとの距離を取ろうとした。


「ど、どうしたらいいですか……?」


 そう言ってシルヴィスを見ると、彼はなだめるように言った。


「リシュ、大丈夫だから落ち着いて。それはクモイが管理しているから危なくないよ」


「そ、そうなんですか?」


「うん、安心していい。今までだって、マントが悪さをしたことなんてないだろう?」


 言われてみると、外套がいとうの代わりにこそすれ、問題が起きたことなど一度もなかった。


「そうですね……」


 リシュールはシルヴィスの言葉にほっとして、ゆっくりと席に座る。それと同時に、また疑問が浮かんできた。


「でも、それなら何故絵本を作る必要があるのでしょうか……?」


 魔法使いが、魔法具を管理すると安全であるなら、わざわざ教訓的な絵本を作る必要はないはずだ。

 その問いにシルヴィスは「俺たちが把握していない魔法具があるのさ」と、ため息()じりに言った。


「絵本の原稿には、魔法具は七つあると書いてあっただろう?」


「はい」


「そのうちの二つの行方が分からないんだ。もう一〇〇年以上探している。でも見つからない。だから、絵本が必要なんだよ」


 つまり、シルヴィスをはじめとする、魔法使いがどこにあるのか分かっているものは、一般市民の手に渡らないようにすることができるが、把握していないものについてはどうにもできないということだろう。


 しかし、何故そのような危険なものが、存在しているのだろうか。


「あの……そもそも、どうして『魔法具』というものがあるのでしょうか?」


 リシュールがおずおずと尋ねると、シルヴィスは「一個ずつ説明するから」と言って、再び「魔法」のことを話し始めた。


「まず、話を少し戻そう。学校が『秘法』に迫ろうとしたと言ったと思うけど、それは『魔法では再現できないものを再現すること』を言うんだ」


「再現できないものを再現する……?」


 どういうことだろう、と眉を寄せるリシュールに、シルヴィスはたとえを挙げてくれる。


「具体的に言うと、雲を操ったり、時を戻したり、死んだものを生き返らせたり、人の気持ちを操作したり……そういうこと」


「魔法は、そんなこともできるんですか?」


 リシュールは目を丸くする。それらは全て彼の感覚では「絶対にできない」ものだったからだ。すると彼は重々しく口を開く。


「いいや、魔法でもできないものがほとんどさ。『魔法』は『再現』だからね。だが、できたものもあったんだ。その一つが、そこにあるマントの能力。それはマントを『扉』にして、別の空間につなげてあるんだよ」


「別の……空間……」


「簡単に言うと、マントを通過した先に、別の部屋あると思ったらいい」


「そう言えば、そんなことをクモイも言っていました。マントの中には人一人が生活できるような部屋があるって……」


 シルヴィスはそれを聞いて苦笑する。


「その通りなんだけど、人一人どころか、とんでもなく大きい部屋があるんだよ。下手したら、ウーファイア王国の王様が住んでいる城くらい大きいんじゃないかな」


「そんなに⁉」


 リシュールは驚いて大きな声を上げた。

 外套としては十分だが、扉にするには薄すぎるマントの先に、まさか城よりも大きい部屋があるなど、想像できる範囲を超えている。


「それくらいないと足りないのさ。実はマントの先に繋がっている部屋には、沢山の本があるんだ」


「本、ですか?」


「そう。その本には、色んな情報が常に魔法によって更新され、蓄積されているんだよ。例えば、この周辺にあるおいしいお店はどこかとか、最近の服装の流行とか、昔はどういう土地だったのか、とかね」


 リシュールはそれを聞いて、何故クモイが屋根裏部屋の下宿屋周辺について詳しかったのか合点した。


「そっか……、だからクモイはおいしいお店のことを知っていたんだ……。五十年間眠っていたって言っていたのに、なんで知っているのか疑問だったんです」


 するとシルヴィスは、肩を軽くすくめた。


「まあ、そういうことだな。正確にいうと、あいつは五十年間眠っていたわけじゃなくて、マントに長くっていたんだ。魔法で収集された情報を用いて、見つからない魔法具を探したり、自分が望む絵本の挿絵を描いてくれる人を探したりしていたからね。ただ、無限に近いほどの情報があっても、探すのは容易じゃない。簡単だったら、とっくに魔法具が見つかったり、絵描きが見つかったりしていて、リシュとは話していないだろうから」


「……」


 リシュールはその話を聞いて複雑な気分だった。


 もし、もっと早くにクモイが絵描きを見つけていたら、リシュールと出会う機会はなかっただろう。


 それだけではない。


 そもそもシルヴィスたちが全ての魔法具を把握していたら、絵本を作る必要もない。そうなれば、彼らと出会うことはなかった。


 リシュールがクモイとシルヴィスとの出会いについて、どう捉えたらいいか考えあぐねていると、シルヴィスが思いも寄らぬことを口にした。


「『秘法』によって『魔法具』が生み出されたわけだが、それには大きな代償が伴った。多くの魔法使いが死んだんだよ」


「え……⁉」


 リシュールには犠牲者が出る理由が分からなかった。

 研究をするだけなら、部屋の中でこつこつと実験を繰り返していけばいいだけだと思っていたからである。孤児院で育った彼にとって、「研究」というものに、誰かの迷惑になるような行為が付随ふずいするとは思いもしなかったのだ。


 するとシルヴィスの表情がかげる。

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