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リシュールと魔法使いの秘密  作者: 彩霞
第三章 もう一人の魔法使い

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第49話 リシュールとシルヴィス

*****


 リシュールは、シルヴィスが経営する『ユフィ』の周辺を当てもなく歩いていた。出てきたのはいいが、この後どうしたらいいのか分からなかったのだ。


「はあ……」


 ため息が白い。空は灰色の雲で覆われており、太陽が見えないので思った以上に寒かった。

 リシュールは身震みぶるいすると、羽織っていたマントにある分け目を閉じるように、内側からきゅっとつかんだ。こうすることで隙間風が入りにくくなる。


「……どうしよう」


 このまま歩いていても仕方がないので、家に帰ろうとも思ったが、クモイが帰ってきて顔を見合わせたら、きっと気まずい雰囲気になってしまうだろう。また、何も言わないで出てきてしまったので、シルヴィスにも顔を合わせずらい。


 そう考えると、戻るに戻れず、結局店の周辺をうろうろしてしまうのだった。


「分かっていたこと……なんだけどな……」


 リシュールは、ゆっくりと歩を進めながら独りちた。

 何の見返りもなく、クモイが心を尽くしてくれるはずがない。それは最初から頭の片隅にずっとあったことだ。


 ただ、彼と一緒に生活していくうちに、いつの間にか当たり前のように傍にいる存在になっていた。

 そのため、シルヴィスの話を聞いて、頭では「そりゃそうだ」とか「仕方ないことだ」と割り切れても、気持ちのほうでは納得できないでいたのである。


「謝らないと……」


 喧嘩けんかをしたままだと、リシュールは家に帰ることができないし、路頭に迷ってしまう。絶対に謝らなければならないのだが、自分の気持ちが上手くクモイと向き合う方向へ向いてくれない。謝りたいのに、謝りたくない自分もいるのである。

 どうしたものかと思っていると、リシュールの名を呼ぶ声が後ろから聞こえた。


「リシュー!」


 驚いて振り返ると、暖かそうな格好をしたシルヴィスが、手を振ってこちらに走ってくるのが見える。

 リシュールは「まずい!」と思ったが、ここで逃げ出したら彼に対しても謝りにくくなると思い、観念してその場で彼が追いつくのを待った。


「やあ、追いついた!」


 息を切らすシルヴィスが目の前に立ち止まると、リシュールは頭を下げて謝った。


「あ、あの、話の途中で出ていってしまってすみません……!」


「え? ああ、気にしてないから大丈夫だよ」


 明るい声で言われ、リシュールが恐る恐る頭を上げると、シルヴィスはさっぱりとした表情を浮かべていた。本当に気にしていないようである。リシュールは安堵し、今度はシルヴィスの後ろを気にかけた。


「あの……クモイは一緒じゃないんですか?」


 おずおずと尋ねると、シルヴィスはさらっと「一緒じゃないよ。いたら気まずいだろう?」と言った。

 リシュールは「うっ」と言葉を詰まらせたあと、こくりとうなずく。


「……はい」


 息を整えたシルヴィスは、吸い込まれそうな水色の瞳で、じっとリシュールの表情を見つめた。


「……あの、何か?」


 黙って人の顔を見続ける彼に声を掛けると、シルヴィスはそのままの状態で「なあ、リシュ」と言った。


「はい……」


 何を言われるのかどきどきしていると、「ちょっとそこでリルサ(すり潰した穀物の生地を薄く焼いて、そのなかにクリームや果物を包んだお菓子のこと)を買って、君んちで食べない?」と思ってもいなかったことを提案された。


「へ?」


 さすがのリシュールも、気が抜けたような声が出てしまう。


「ほら、あそこの店だよ」


 シルヴィスが店のほうを指さしたので、そちらに目を向ける。

 そこには可愛らしいお店が建っていて、店の半分上がガラス張りになっており、店内では身なりのいい人たちが、出来立てのリルサを列を作って待っていた。


 それを見て初めて、生地が焼ける甘い香りがただよっているのを感じた。


「ここで立ち話もなんだろう?」


「それは、そう……ですけど……」


 リシュールは歯切れ悪く言う。ここにシルヴィスがいるということは、クモイが家に帰ってしまっているのではないかと思ったのだ。

 すると、気持ちを察したシルヴィスが言こう言った。


「クモイが『家に戻ってくるかもしれない』ってことなら心配しなくていいよ。俺が帰るまでは店で待機するように言ってあるから」


「そうなんですか?」


 リシュールは驚いた表情を浮かべ、シルヴィスの顔を見た。


「うん。だから安心していい。それにもし追いかけてきても、魔法で分かるし、俺が対処するから気にしなさんな」


 彼は明るい光のような笑みを浮かべると、ぱちりと軽く片目を閉じた。

 それが、「何かあっても任せなさい」というような大きな気持ちが伝わってきて、リシュールは不思議と心に安心感が広がるのだった。


「分かりました。リルサを買って、うちに行きましょう」

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