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リシュールと魔法使いの秘密  作者: 彩霞
第三章 もう一人の魔法使い

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第48話 伝えたいこと

クモイはその主人に仕方なく続けて仕えていたが、誰しも限界というものがある。

 主人の横暴さが一層ひどくなったころ、彼は魔法を使って辞めた。


 やり方は至って単純で、従者を職から退けさせるために使う書類に、魔法で主人の筆跡を再現して「主人がクモイを辞めさせた」と思いこませたのだ。


 嫌な主人から解放されたのはよかったが、クモイは当初の目的だった、「絵描きと接触する」ことができないで終わってしまったのだった。


 それ以来クモイは、自分と初めて関わる人間のことを調べることにしたのである。リシュールのことを調べたのも同じことを繰り返したくないという理由だったのだが、クモイは彼のことを調べたことに心を痛めていた。


「リシュが善人であることはよく分かっている。彼の傍にいるのが目的ありきであることを思い出すたびに、自分が嫌になる……」


「だったらやめるか? リシュを巻き込んでまで、俺たちが死した者のためにここまでやる理由はないだろう」


「ある」


「はっきり言うねぇ」


 シルヴィスは鼻で笑う。

 クモイは暗い表情のままで、思いを吐露とろした。


「全て背負わせた。何もかも……。だからせめてウーファイア、いや――マリが望んだことだけはかなえてやりたい。それは私にしかできないことだ」


「気持ちは分かるよ。痛いほどに。俺はずっと彼女の傍にいたんだから。だが、その気持ちのせいでリシュを悲しませるのは違うような気がする」


「……」


 クモイが黙って何も言わないので、シルヴィスは話を続けた。


「俺たちは無力だよな。魔法と魔法使い、そしてあのとき起こった戦いに関して何一つ残すことはできないんだから。それは『再び魔法を使えるようにしてはいけない』と考えたからで、俺たちはどういう状況になっても、これ以上魔法のことを語ってはいけないんだ」


「だから、伝承として残そうとしたんじゃないか。真実かどうかは二の次でいい。私たちが望んだことと生きた証を、後世に伝わるようにするために」


「その媒体として適切だったのが『絵本』だった」


「あれは親が子どもに読み聞かせするから、間違いなく大人になっても頭の隅に残る。その人が意識していようがしていまいが、ね……」


「『絵本』に決めたのは良かった。だが、俺たちには絵心がなくて駄目だった。魔法で絵を描くという手もないわけではないが?」


 片眉を上げて笑うシルヴィスに、クモイはため息をついた。


「魔法に頼りたくないと言っただろう。それに、どうせ我々がやったところで、魔法で筆を動かして描くぐらいしかできない。そんなことをするくらいなら手で描いたほうがよっぽどましだろう」


「そうさ。最初からあんたが、絵心がなくっても手描きをしていればよかったのさ。そうしたら、リシュを悲しませなくて済んだ。今ごろ『これまでクモイがしてくれていた親切なことは、絵本の挿絵を描かせるためだけだったんだ』って思っているだろうよ」


「……」


「不器用な奴だな。何も話さなかったらそう思われるだろうに……」


 言い返せないでいるクモイから視線を外すと、シルヴィスは椅子から立ち上がった。


「どこへ行くんだ?」


「リシュを追いかけるんだよ。俺が彼と話してくる」


「……そうか」


 シルヴィスはクモイが「ついていく」と言うのではないかと思っていたのだが、そうはならなかった。先ほどと打って変わり、しおらしくしている。


「なんだ、物分かりが良いじゃないか」


 クモイはぷいっとそっぽを向いて「……うるさい」と言い返す。


「調子も戻ってきたね。親友同士仲良くやろうぜ」


「どこを見たら親友になるんだ」


「二百年の間、必要なときにちゃんと会ってきたじゃないか。しかも、お互い知らないことはほとんどなし。家族構成だって知ってる。親友以外に何て表現するんだよ」


「偶然居合わせた同級生。それが二百年続いただけだろう」


「冷たいなぁ。しかも今日は、ご主人さまにいい顔をしたくて、俺に対して他人行儀な態度を取るんだもんなぁ。傷ついたよ」


 シルヴィスが面白がって言い募る。だが、クモイも負けていない。


「……私は君と親しい間柄だと思ったことはない。それに『傷ついた』何て言っているが、どうせ傷ついてなんかいないだろ」


「そうだね。全く傷ついてないよ」


「ほら見ろ。薄情者はくじょうもの


「違う、違う。カイルの言っていることが、本心じゃないって分かっているってこと」


 すると、クモイはシルヴィスのほうを見て、「心外だ」と言わんばかりの表情を浮かべた。


「……」


「面白い顔をしているなぁ。とにかく、カイルはここにいて茶でも飲んでいなよ」


「いらない。それとクモイだ」


 きっちり反応する旧友が面白くて、シルヴィスは笑う。こんな風なやり取りができるのも、この世でもう彼だけで、きっとこの先も現れないだろう。


かたくなだなぁ」


「それと、くれぐれも余計なことだけは言うなよ」


「はいはい。じゃあ、行って来るよ」


 シルヴィスは紺色のコートを羽織り、部屋から出て行こうとしたが、ふと、足を止めてクモイを振り返った。


「ところで、リシュの向かった方向は?」


 その質問に、クモイは微妙な顔つきをしたあと、大きくため息をついた。

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