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リシュールと魔法使いの秘密  作者: 彩霞
第三章 もう一人の魔法使い

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第45話 絵本の話

     *


「ウーファイア」は、とある村のために働く魔法使いだった。


 彼女は、主に魔法で土をたがやすのを手伝ったり、天気を予報したりしていたが、ときにはまじないを作ってやり、人の不安を取り除いたりもしていた。また、村の人々が知らない知識を持っており、それで彼らを助け、人々の生活に寄り添っていたのである。


 だが、穏やかな日々が続くと思われたある日のこと。ウーファイアがいた村の一帯で、「大地の揺れ」が起きてしまう。


 それは大きな揺れで、大地に亀裂きれつが走ったり、土砂崩れが起こったりした。

 ウーファイアがいた村は、彼女が魔法で「大地の揺れ」を予知していたため、村人は山菜やきのこを採るために山に登ることもなく、倒壊しそうな家や木などに近寄らなかったため、怪我をしなくて済んだ。


 その一方で、他の村では大きな被害が出てしまう。


「大地の揺れ」が起こって間もなく、白装束しろしょうぞくの者たちがウーファイアがいる村へと来て、彼女に自分たちの村を助けるようにと懇願こんがんした。

 ウーファイアは今いる村のほうが大切だったため気乗りしなかったが、人の命がかかっていることもあり、使者の村へと向かうことにした。


 彼女は得意の魔法を使って、人々を助け、励ました。お陰で、村に以前のような活気が戻りつつあったが、その一方で村人たちはだんだんと優秀な魔法使いの力に頼るようになっていく。


 挙げ句の果てには、何もかにも「何をしたらいいのか」とウーファイアに聞き、自分で考えなくなった村人たちを見た彼女は、七つの魔法具を作る。


 それを村に残したウーファイアは元いた村へと戻り、七つの魔法具を手にした者がこの国を作った――というのが、大まかな流れである。


     *


「これって……」


 リシュールは読み終わると、困惑したように呟く。そしてゆっくりと原稿から顔をあげると、「もしかして、この国が作られたお話なの?」とクモイに尋ねた。


「ウーファイア」とはこの国の名前——ウーファイア王国と同じである。

 しかしリシュールは、今読んだような建国の話を一度も聞いたことがない。驚いていると、クモイは首を横に振る。


「いいえ。ウーファイア王国……いえ、この世界に起こる可能性のある『厄災やくさい』を防ぐための教訓的童話です」


「どういうこと?」


 意味が分からず、眉を寄せた。


「私は『二〇〇年生きる魔法使い』と申しました。ですが現代、私たち以外に生き残っている魔法使いは数人だけです。しかし、魔法に関する危険なものは残っています」


 リシュールは小首を傾げる。


「危険なものって?」


「絵本の原稿にも書いてある、『魔法具』と呼ばれるものです。簡単に言うと、魔法が備わった道具のことを言います。人々の間では、『願いがかなう道具』とか『夢の財宝』と噂されているようですが」


 そのときリシュールは、古着屋の店主が客と話していたことを思い出す。


「それだったら、話をしている人を見たことがあるよ。『手に入れれば自分の願いが叶う』って。でもなんでそれが、危険なものなの?——あ、もしかして、森深くにあって、探しに行くとオオカミに襲われるから?」


 客の話によれば、人が住んでいないはずの森に一軒家を見つけた途端、狼が襲ってきたと言っていた。

 そのため、危険というのは「『夢の財宝』を守っている狼のこと」だとリシュールは思ったのだ。


 だが、クモイは否定する。


「それは違います。『魔法具』を守っている魔法使いが、用のない人を近づけさせないために放っている獣です。狼に似ているので、見た人が勘違いしているようですが、害がないものです」


「でも、馬がまれたって……」


「それは踏み入ってはいけない場所まで、入ってしまったため、追い返すためにむ無くした処置です」


 まるで見ていたかのような返答に、リシュールは目をしばたたかせた。


「詳しいんだね……」


 ただ一言そういうと、クモイは身じろぎしたあとに答えた。


「……私の仲間がしていることなので、話を聞きました」


「数えるしかいない魔法使いの一人ってこと?」


「ええ。リシュ、そのことについてはまた改めてお話いたします。話を『魔法具』に戻しましょう」


「あ、うん。それで、どうして『魔法具』は危険なの?」


 その問いには、シルヴィスが答えた。


「基本的に『魔法具』には『鍵』がかかっていて、それを開けなければ放っていても問題はない。だがその『鍵』というのがもろくてね。いじっているうちに開いてしまう可能性があるんだ」


 リシュールは左側に座るシルヴィスのほうを見た。


「開いてしまったらどうなるんですか?」


「それがまあ……、使う人によってどうなるかが分からないから、厄介やっかいなんだ」


 シルヴィスは歯切れ悪く答え、クモイは硬い表情をしている。彼らにも分からないということなのだろうが、少なくともいい方向には進まなそうなのは、二人の様子を見て感じた。

 鍵はかかっているが、いじっていれば開く可能性があるという魔法具。


「ですから、リシュに絵本を描いていただき、教訓話のようにして伝えたいのです」


「……」


 クモイの言いたいことは大まかに分かった。

 しかし、人々に分かるように伝えようとするならば、自分には力がなさすぎると思った。

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