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リシュールと魔法使いの秘密  作者: 彩霞
第三章 もう一人の魔法使い

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第42話 魔法使いが営む店

「リシュ」


 夕食を食べ終え、片付けも済んだときのことである。温かなロフトニーを飲んでいると、クモイがあるじの名を呼んだ。


「うん?」


 見るとクモイが向かい側の席で、かしこまった様子で座っている。


「改まってどうしたの?」


 リシュールが笑って聞くと、クモイは少し硬い口調で話し始めた。


「ようやく新しい部屋での生活も慣れてきましたので、約束通り、リシュに絵を描いていただきたく思います」


「ついにそのときがきたんだね」


 リシュールは居住まいを正す。


「はい。ですが、その前に会っていただきたい人物がいるのです」


 絵を描くことと、人を紹介することが上手く繋がらず、リシュールはきょとんとした。


「誰と会うの?」


「私と同じく、呪われた運命にある魔法使いです」


 リシュールはぱちぱちと目をしばたたかせる。

「魔法使いが他にもいたんだ」とか、「クモイと同じように呪われているんだ」とか、色々な驚きが頭によぎったが、リシュールは尋ねることなく、ただ「そっか」と言った。


「いつ会いに行くの?」


「よければ次の休みの日に」


「次の休みは、明後日あさってだよ」リシュールがすぐに答えたあと、「僕はいいけど、クモイは大丈夫?」と尋ねた。


 そう聞いたのは、彼も日中どこかへ出掛けて仕事をしているからだった。

 だが、リシュールはクモイが何の仕事をしているのか、どこで働いているかは知らない。この三か月の生活で、リシュールはクモイ自らが話さないことは聞かないという態度が染みついていた。


「大丈夫です」


「じゃあ、明後日に行こう」


「はい」


 こうしてリシュールは、クモイとは別の魔法使いに会いに行くことになったのである。


     *


 次の休みの早朝。

 リシュールは不動産屋と会ったときに着ていた服に、マントを羽織って、クモイの知り合いである「魔法使い」がいるところへ向かっていた。


 クモイに話を聞いた限りでは、その人はリシュールたちが住んでいる場所から、西に歩いて二十分くらいのところにある、「アルトラン南十一番地」で店を経営しているらしい。


 リシュールはクモイと他愛ない会話をしながら、今から会う魔法使いに思いをせた。


 アルトランの南に住んでおり、店も経営しているということはお金持ちなのだろう。そしてクモイと同じく呪われている魔法使いである――ということ以外、リシュールは何も知らない。


 男の人なのか、女の人なのか。年齢はどれくらいなのか。優しい人なのか、気難しい人なのか……。

 だが、クモイと同じように長生きしているのだとすれば、目に見えぬ過去は重く暗いものなのかもしれないと、リシュールは思うのだった。


「ここです」


 クモイは、三階建ての白いレンガ造りの建物の前に来るとそう言った。

 表に出ている看板にはこの国の古語で『ユフィ』と書いてある。大陸に伝わる古い言葉で「花」という意味だ。

 その名にふさわしく、エントランスのドアの上部にあるガラス窓からは、冬にもかかわらず大きな花瓶に、色とりどりの花が飾られているのが見える。


「お洒落しゃれなところだね」


 リシュールはそう感想を述べたが、クモイは珍しく「そうですね」と素っ気なく答える。そしてドアを開けると、「どうぞ、お入りください」と言った。お店や花の感想よりも「早く中に入ってほしい」ということだろう。


「……う、うん」


 何か良くないことを言ったのかなと思いつつ、リシュールは店内へ入った。

 すると花瓶にいけてある花からする、瑞々《みずみず》しい匂いが、ふわりと香る。


 リシュールたちは、大人三人が横並びに歩けるエンドランスを抜けると、広い空間に出る。

 その両側には、また別の部屋がある。左側は、壁が暗い色で統一されてあり、大人びた雰囲気が漂う一方で、右側は、明るい色の壁で統一されていて、子どもから大人まで和やかに過ごせそうな雰囲気がある。


「ここはエトリア(バーのような酒場)と喫茶店が併設されているんですよ」


「そうなんだ」


 きっと、大人びた雰囲気のある方がエトリアで、明るい方が喫茶店だろう。

 開店前だからなのか、椅子もテーブルの上に上げられており、がらんとしていた。


 そもそも、開店していないうちに入ってよかったのだろうかとも思ったが、クモイが堂々としているので、リシュールは気にしないことにした。


「先に行きましょう」


 クモイがさらに促したので、リシュールはこの空間を後にして先へ進んだ。


 廊下の行き止まりまで来ると、そこには螺旋階段らせんかいだんと、受付のようなカウンターがあった。だが誰もいない。

 

 人がいないのにどうするのだろうと思っていると、カウンターの後ろにある壁の色と同じに染めてあったドアから人が出てきた。体のシルエットがはっきりと分かる、黒いドレスを身に着けた女性である。


 しかし、クモイとリシュールがいるとは思わなかったのだろう、彼女は驚いた顔をする。だが、すぐにそれを引っ込めて客をもてなす笑みを向けた。


「いらっしゃいませ。申し訳ありませんが、ただ今準備中でございまして……」


 口紅が塗られた赤い唇を動かし、申し訳なさそうにいう彼女にクモイは人の良さそうな笑みを浮かべた。

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