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リシュールと魔法使いの秘密  作者: 彩霞
第三章 もう一人の魔法使い

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第41話 変化

 リシュールが引っ越しをして、三か月ほど経った。

 アルトランは本格的な冬の季節を迎え、連日雪が降り続いていた。城下町は真っ白な世界へ様変わりし、寒い日々ではあったがリシュールの生活は暖かだ。


 少し前まではこの冬を乗り越えられるか心配していたというのに、暖炉のある部屋に越してきたお陰で寒さに凍えることがなくなった。またクモイが「今後は私がリシュの分の朝食もご用意いたします」と言った通り、毎日温かな料理を作ってくれるため、快適な冬の生活を送っている。


「リシュ、夕食ができましたよ」


「はーい」


 リシュールは窓から見えた空の絵の色付けを途中でやめると、自分の部屋から出て、南側に面した居間へと入る。すると良い香りがふわりとした。


「今日は野菜スープだね」


「はい。お店においしそうな根野菜がありましたので、買ってまいりました」


 席に着いたリシュールの前に、クモイが野菜スープの入っている大きな皿を置いてくれる。そのあとに、クモイが向かいに座るのと同時に自分の分も目の前に置いた。

 リシュールはそれを確認してから、テーブルに用意してあった木のさじを手する。


「すごくおいしそう! 食べていい?」


「もちろんでございます。どうぞ、お召し上がりください」


「では、クモイに感謝して」


 ここへ引っ越し、クモイが食事の用意をしてくれるようになってから必ず言っている言葉である。


「そういうのはよいと申しておりますのに……」


 そしてクモイのこの返答も、三日に一回言っていることである。最初の頃は、リシュールが「クモイに感謝して」というたびに「そういうのはよいと申していますのに……」と言っていたので、これでも回数は減っているのだ。


「いいんだって。僕が感謝したくてしているんだから」


 クモイとの生活にも慣れてきていた。


 主従関係があるとはいってもお互い他人。そのため孤児院のときのように、些細ささいなことで喧嘩してしまうこともあるだろうと思っていたが、これまでに一度もない。

 クモイがかなりの年上のため、問題があっても大抵のことは彼の寛容さで受け止められてしまい、言い争いになることがない。


 ただ、お互い気を使いすぎたり、ゆずり合いすぎたりすることはあるので、その辺りは都度話し合って、折り合いをつけている。

 

 また、引っ越しをしてからリシュールの仕事も変わった。

 以前は屋根裏部屋に近い、北区の大通りで靴磨きをしていたが、現在は近所にある靴の修理屋に勤めている。


 そこで働くことになった経緯は、元々その店で働く職人を探していたからだ。


 しかしすんなりと決まったのは、クモイの口利きがあったのも大きい。


 彼は五十年間眠っていたというわりに、人付き合いがよい。そのため靴の修理屋の店長とも和気わきあいあいと会話をしていた。


 靴の修理屋の店主といつどこで親しくなったのかは聞いていないので分からないが、クモイの口添えがなければ、リシュールはこのような良いところでは働けなかっただろう。


 新しい職場では、発見が沢山ある。

 路上で靴磨きをしていたときとは違い、様々な技術が必要なので覚えることが沢山あるが、他の職人の作業を見て学ぶこともできるし、技術が必要な分、給与も高い。


 そのため、生活費を家に入れることができるようになったのだ。クモイは受け取るのをしぶるが、肩身の狭い思いをしなくて済んでいる。


 二人の生活で問題があるとすれば、一つだけ。

 それはクモイが夜にベッドに入らないことである。寝室が同じなので、ベッドに入ったかどうか、すぐに分かってしまうのだが、彼はまったくベッドで寝ていない。それどころか、寝室に出入りするのも遠慮しているほどである。


 クモイの言い分は、「主人と同じ部屋で寝るのは従者としてあり得ないし、マントの中で眠るほうがいいということ」なのだが、では、なぜ寝室が同じになっている部屋を提案したのだろうかと疑問に思った。それなら最初から別々の部屋にしてくれれば良かったのに、と。


 だが、よく考えてみたら、クモイは最初からマントの中で眠るつもりでいたのだと思った。彼はいつだって、リシュールが快適に過ごせるのであればいいと思っている節がある。だから、寝室にベッドが二つ入っていようと、個室に一つずつ入っていようと同じだったのだろうと思った。


 どちらにせよ「クモイがマントの中で寝てしまう」というのは、リシュールにとっては残念なことである。


 彼が孤児院で生活していたときは、一つの部屋に二段ベッドが二組あったため、多いときは四人で夜を明かした。


 孤児院なので消灯時間があり、先生たちが見回りに来るため早く寝ることがほとんどだったが、たまにこっそり起きて夜がけても話続けていたことがあった。それがとても楽しかったし、誰かと同じ部屋で一緒に寝るのは安心できた。


 そのため孤児院と同じように、誰かと一緒に話しながら眠れるといいなと思っていただけに、リシュールはちょっとがっかりするのだった。

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