表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リシュールと魔法使いの秘密  作者: 彩霞
第二章 マントの中で眠る魔法使い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/69

第28話 調理場の掃除

 下宿屋の調理場は、一階にある。

 リシュールは昨日使ったランプを持ち、眠っている他の住人を起こさぬよう足音に気をつけながら、静かに四階の屋根裏部屋から下の階に下りた。


 一階に着くと、エントランスの前のランプが置いてあるテーブルにそれを置く。

 全部で十個あるランプだが、リシュールが戻しに来たものを含めて三個しかなかった。他の住人が返しに来ていないのだろう。現在下宿人は全員で六人なので、複数個持ったままになっている人がいるようだ。


 ランプを返し終わると、今度は玄関とは反対にある調理場へ向かった。


「おはようございます」


 リシュールはそう声を掛けてから、壁が青と白のタイルになっている調理場へ入る。人気ひとけはないが、それでも挨拶をするのは、以前おかみを驚かせてしまったことがあったからだ。


 その日は、強い雨が降っていて、日常の音が雨音にまぎれて聞きにくくなっていた。

 リシュールは調理場も何の音も聞こえなかったので、誰もいないと思ったが、おかみが作業台の下で黙々と掃除をしていたのである。


 そのため、リシュールに気づいたおかみびっくりして飛び上がり、作業台の天板に思い切り頭をぶつけてしまったのだ。その後「挨拶してから入りな」と注意されたため、彼女の姿がなくても言うようにしている。


「よし、やるぞ」


 リシュールは腕まくりをすると、気合を入れた。


 最初に行うのは、かまどの周辺にある、下宿人が使った食器類と料理で使われた調理器具の片付けだ。洗うためには水がいるため、外にある井戸のところまでこれらを持って行かなくてはならない。

 リシュールは、壁にかけてある底が広くて浅いおけを手に取ると、床に置き食器を入れていく。


 一人ひとりが使った枚数はそう多くはないが、白い陶器の皿とスープ用の木製の器、ロフトニーを飲むためのカップを、五人の住人とおかみが使っているため、合わせると二十枚近くある。また、金属のフォークと木のさじもそれぞれ使っているので、人数分洗わなくてはならない。


 調理器具のうち、刃物はおかみがすぐに片付けるためないが、まな板や鍋は必ずある。特に鍋は、肉や野菜などを焼くために使った底の浅いものと、スープを作った深いものがあり、夕食のたびにそれらが一セットか、二セット使われるのだ。


 だが、これらを一気に井戸端いどばたに持って行くことはできないので、いつも食器を洗った後に、鍋などの調理器具を持って行って洗っている。


「あと、石鹸せっけんと布巾を入れて、と……それと食器布しょっきふ


 リシュールは次に、備え付けの棚に入っている石鹸と清潔な布巾ふきんを取り出す。それと食器を洗うために使っている、食器布(食器を洗うための布で、汚れが落ちやすいように表面が凸凹している)を布などを掛ける簡易的な物干しから取って、汚れた食器と重ならないように桶の中に一緒に入れた。


「よいしょっ……」


 リシュールは必要なものを入れると、おけを持ち上げ、井戸がある下宿屋の裏口へ向かう。


 裏手には井戸だけではなく物干し竿もあるのだが、ここで生活している住人の洗濯物も干して良いことにはなっているので、利用する人もいる。


 リシュールも洗濯はするが、冬場はあまり行わない。裏手が他の建物の壁に囲われた場所のため日が差さず、乾かないためだ。


 乾かなくても問題ないほど衣類を持っていればいいが、リシュールはそうもいかない。そのため下着以外は、三週間近く洗わずに着ていることが多い。

 孤児院にいたときは、少なくとも一週間に一度洗っていたことを考えると不衛生だと思うが、仕方ないのだ。


 リシュールは裏口の前に立つと、両手がふさがっているので裏口の取手を右肘を使って押し、扉は体で押して開けた。本当は一度桶を下に置いたほうがいいのだが、面倒なのでいつもこのようにして開けている。


「あっ」


 するとそこには、酥色そしょく(クリーム色のこと)の厚手のセーターに、涅色くりいろ(黒に近い茶色のこと)のスカートをはいたおかみが、つるの付いた桶を手に持って、いつもと変わらぬ不機嫌そうな顔で立っていた。


「あ……、おはようございます」


「おはよう」


 リシュールが挨拶をすると、彼女は特有の低い声で返す。

 飲水を作るための水を運んでいるのだろう。この仕事は必ず毎朝おかみがしている。


「……」


 挨拶の後は常に沈黙が落ちる。

 おかみは必要最低限のことしか話さず、リシュールも何を話したらいいのか分からないのでつい戸惑ってしまう。一応、何か世間話をしたほうがいいだろうかと数秒悩むのだが、おかみの不機嫌そうな顔を見ると余計なことをしないのが一番だと思い、結局何もせず、会釈えしゃくをしてそそくさと井戸の傍に桶を持って行くのだった。


 だが、今日は少しだけ違った。


 リシュールが、さて、食器を洗うかなと思うと、おかみが彼の名を呼んだのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ