表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リシュールと魔法使いの秘密  作者: 彩霞
第二章 マントの中で眠る魔法使い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/68

第25話 マントの中の世界①

「それより、部屋を調べられるとは思わなかったよ。もしクモイじゃなかったら、僕は部屋を追い出されていたかも」


 リシュールは、可笑おかしそうにふふっと笑う。クモイならば絶対に見つかりっこないと思っているからだ。主人が笑っているのを見て、クモイも表情を和らげる。


「今後も見つからないように気を付けますね」


「うん。よろしくお願いします」


 そう言って二人で笑い合うと、リシュールはぐっと伸びをして服を着替え始める。

 クモイはまた目のやり場に困っている様子だったが、孤児院では普通のことだったので、何故彼がそのような態度を取るのか、リシュールには不思議なのだった。


「今日はもう寝よう」


 着替え終わったリシュールはベッドに座って言った。


「はい」


 だが、自分がベッドに入り、椅子に座ったままのクモイを見て、はっとする。


「あ、そういえばクモイのベッドがないね。どうしよう……」


 ベッドの上で起き上がると、クモイは彼の側に寄り、横になるよううながす。


「私のことはお気になさらず。マントの中に戻って寝ますから、大丈夫です」


「マントの中?」


 リシュールは枕に頭を載せると、顔だけクモイのほうを向けて聞いた。


「靴磨きのためにこの服に着替えた際にも申し上げましたが、マントの中は一人くらいなら生活できるような空間があるのです」


「ベッドはあるの? 寝られる?」


「ええ、ございますよ。ですから、ご心配には及びません」


「へえ、そうなんだ……。すごいんだね」


 リシュールは感嘆の声をあげる。


「それほどのことではございません」


「ねえ、ベッドはどんな感じ? ふかふか?」


 興味本位で聞いてみる。

 すると、クモイは困ったような笑みを浮かべて「そうでもないですよ」と答えた。それを見たリシュールは、何となくそれ以上聞かない方がいいような気がして、「そっか」とだけ言った。


 クモイはリシュールのことを知りたがるが、自分のことはあまり話そうとしない。

「主人」と「従者」の立場上の違いなのだろうか。はっきりした理由は分からないが、リシュールは彼のことを知るには、まだ時間がかかりそうだなと思った。


「さあ、お休みください。ランプの火は私が消しますので」


「うん、ありがとう」


「おやすみなさい、リシュ。良い夢を」


「クモイもね。おやすみ」


 そして目を閉じると、まぶたに感じていた柔らかなランプの光がふっと消える。

 リシュールは暫く目をつむっていたが、やはり気になってちょっとだけ目を開けた。すると月明かりの光で青白く浮かび上がった部屋には、すでにクモイの姿はなかった。マントの中に戻ってしまったのだろう。


 しかし、彼の姿が見えなくなっても、傍にいることは分かる。マントに呼びかければ、またクモイが出て来ることを知っているからだ。


 リシュールにとって一人ではない夜は久しぶりだった。

 まるで贈り物をもらったような喜びの気持ちを胸に抱き、明日の朝が楽しみになりながら眠りにいたのだった。


*****


 主人に就寝の挨拶をした後、クモイは一人マントの中に戻っていた。


 マントの中は、入ったばかりのときはいつも真っ暗闇である。とりあえず地面の上に立っているので、かろうじて上と下は分かるが、右と左はさっぱり分からない。目を開けていても、一筋も光がないので、開けていないのではないかと錯覚するほど何も見えないのだ。


 一七〇年ほど前、初めてこの中へ入ったときは、この左右が分からない感覚に恐怖を覚えたが、数え切れないほど出入りしているうちに、いつの間にか全く気にならなくなった。自分の感覚が慣れてしまったのだろう。


 クモイはその世界に光が出てくることを待った。光が出てくる時間まではそう長くない。初めは暗闇に現れる光を早く捉えたくて目を開けていたが、すぐに見ると眩しさで目がくらんでしまうため、目を閉じて静かに待つことを覚えたのだった。


 そんなことをしているうちに、かぶたの辺りに淡い光を感じる。


 クモイは、ゆっくりと目を開いた。自分はまだ「暗闇」にいるが、その先には光に照らされた背の低い草花が咲き誇る、穏やかな雰囲気の大地が広がる。


 しかし、ここはマントの中。そのため、本物の太陽はない。


 大地を照らしているのは、「太陽に見せかけたもの」から光が放たれているだけだ。


 だが、「暗闇」の中にいてもただってくる草花の瑞々《みずみず》しい香りや、遠くで聞こえる川のせせらぎの音は違う。それらは実際に存在している。

 何故本物があるのかといえば、ここが《《マントの中に入った魔法使いが生活できるように》》作られているからである。


「……」


 クモイは歩いて明るい大地に出る。気温も程よく暖かい。


 それを感じるや否や、彼がほんの少し前までいた「暗闇」は無くなった。その代わり「暗闇」があった場所を振り返れば、目の前にある「草花が咲く大地」と同じ光景が遠くまで広がっているはずだ。


 だが、彼は振り返って確認はしない。わざわざ見ずとも、ここに入るたびに間違いなく起こっている現象であると分かっているからだ。


 幾度いくどとなく見てきて、別の事象が起こることはなかった。そのため今も、これまでと同じことが繰り返されていることを彼は知っている。


 草花が風に揺れる地に出たクモイは、左手を見上げた。するとそこにはとんがり屋根の、石を積み上げて出来た家がある。


「……」


 彼はその家を見て小さくため息をつくと、木でできた重い玄関の扉を引き、気だるそうに中へ入った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ