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リシュールと魔法使いの秘密  作者: 彩霞
第二章 マントの中で眠る魔法使い

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第24話 「屋根裏部屋に住む」ということ

「どうぞ」


 おかみは、リシュールが使っている屋根裏部屋に入ると、周囲を眺めた。

 狭い部屋に物もほとんどないので、人や生き物を隠せるとしたらベッドの下くらいだろう。リシュールは早く終わらせるために、あえて自分から「ベッドの下も見ますか?」と聞いた。


 おかみは部屋の向けていた視線を、ゆっくりとリシュールに向け顔をじっと見る。何を考えているのかを見極めようとしているようだった。


「見せて」


 彼女は短く言う。


 リシュールは「はい」と返事をすると、ベッドのわきにたれている毛布をめくり上げた。おかみはランプをかざしながら、ベッドの下の空間を念入りに確認する。無論、誰もいない。


「一応、毛布の中も確認する」


「は、はい」


 おかみはリシュールの返事を聞くや否や、ベッドの上で丸まっていた毛布をたたむ。だが、ここにも何もなかった。


「疑って悪かったね」


 おかみは、疲れたようにため息をつく。


「いいえ」


 リシュールは首を横に振る。

 だが、気が抜けなかった。疑いは晴れだが、おかみが彼のことを見つめ、部屋から出て行こうとしないのだ。


「あの……何か?」


 遠慮がちに尋ねると、おかみは一言言った。


「このマント」


 そして彼のマントをおもむろに掴む。


「マント……?」


 どきりとする。何か問題でもあっただろうか、とリシュールは尋ねられた理由を考えながら、次の言葉を待った。


「どこで買った? いいもののようだけど。人からもらったとか?」


「いえ、古着屋で買ったものです。あのレンガ造りの……」


「ふーん。こんなものも売っているんだね。いくら?」


 おかみは、手のひらでマントの生地を優しくでる。触り心地を確かめているようだった。


「三千セトでした」


「……そう」


 おかみはただそう言うと、「遅くに悪かったわね。おやすみ」と言って出て行った。リシュールはそっとドアの傍まで行き、彼女の足音が遠ざかっていくのを確認すると、ほっと息をついて、その場に座り込んだ。


「よ、良かった……」


 小さく呟く。すると「リシュ」と自分を呼ぶ声が聞こえたので、リシュールはマントを外して、床に広げた。するとそこから、クモイがすっと出て来る。やはり何度見ても不思議な光景だ。


「大丈夫ですか?」と気づかわしげに、だが小さな声でクモイが尋ねた。


「うん」


 リシュールが気が抜けた顔でうなずくと、クモイは手を差し出して「立てますか?」と聞いた。リシュールはその手を掴み、クモイに立たせてもらう。


「ありがとう」


「いいえ、お気になさらず」


 そして彼は、リシュールの傍に置いてあったランプを手に取ると、今朝ランプが置いてあったテーブルの同じ場所に置いた。


階下かいかの方の話しからこんなことになるのですね……」


「聞こえていたの?」


 リシュールは驚いて聞いた。マントの中に入っていたので、話し声は聞こえないと思っていたのだ。するとクモイははっとしたあとにしょんぼりとして答える。


「申し訳ありません。盗み聞きをするつもりはなかったのですが、マントの中にいても、外の音が聞こえてしまいまして……。リシュの呼びかけで出て来られるのもそのためなのです」


「ああ、なるほど」


 リシュールは納得した。確かにマントの中に外の声が聞こえなかったら、呼びかけても出てこれない。


「ですが、これは言い訳ですね。次からは耳に詰めものをして、聞かないように心がけます」


 クモイはそう言ったが、リシュールはむしろ、話を聞いてもらえてよかったと思っていた。


「気にしなくていいよ。説明をする手間がはぶけて助かった」


「それなら良いのですが……」


 クモイはほっとした表情を浮かべる。それを見るとリシュールの顔もほころんだ。問題が起こったときに、こうやって話をする相手がいるのは有難いし、心強いと思ったからである。


「それより、さっきのことだけど、僕も油断していたよ。まさか下の階の人から苦情がいくと思わなかったんだ」


「ルベル……という人は、気難しい方なのですか?」


「うーん、どうだろう」


「ご存じないのですか?」


 クモイの問いに、リシュールは肩を落とした。


「あんまり話さないしね。でも――」


 そこでリシュールは、はっとして、言おうとしていたことを飲み込んだ。


「でも?」


 クモイが聞き返してくる。


「あ、いや……ううん、何でもない」


 リシュールはそう言って誤魔化す。言おうとしていたことは「でも、僕が貧乏人だから関わりたくないんだ。きっと、お金を盗まれたりするのを警戒しているんだと思う」だった。


 だが、もし口にしたらクモイはまた返答にきゅうするに違いない。リシュールは彼に気を使わせたくなくて、口を閉ざしたのだった。


 しかし理由はもう一つある。というのは、彼はルベルのことを悪くも言いたくなかったのだ。


 ルベルがリシュールに対して、警戒する気持ちを持っているのは、昨年屋根裏部屋に越してきたときからである。初めて会っておかみに紹介されたとき、彼は「また屋根裏部屋か」とため息をついていた。


「屋根裏部屋に住む」というだけで、お金がないことは分かりきっている。「屋根裏部屋」は人が住むようにはできていない。だからこそ家賃が安いのだ。


 そして金がある人は、人が住まないようなところを生活の場としては借りない。借りるのはお金のない貧乏人。よって、必然的にこの場所に住む者は貧乏人だということが、誰かに言わなくても分かってしまうのだ。


 全ての貧乏人が誰かのお金を盗むわけではないが、住人として警戒するのは当然だろう。そして、ルベルはリシュールの前に住んでいた屋根裏部屋の住人と、何かしらの問題があったと思われた。そうでなければ「また」とは言わないだろう。リシュールはそう考えていた。

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