第11話 マントの中の謎
「クモイ、聞いてる?」
「はい、聞いております。——リシュ、一つお聞きしたいのですが、靴磨きにふさわしい格好をしたら、私もお手伝いさせてもらえるのでしょうか?」
「え?……それなら、まあ、いいけど……」
しかし、相応しい格好をするには着替えなくてはならない。どうするのだろうと思っていると、クモイは「マントに入りますが、すぐに出てまいりますので、少々お待ちくださいませ」と言う。そして彼はマントの中に戻ったかと思うと、ものの数分で出てくる。
そしてクモイはおずおずと主人に尋ねた。
「……これで、いかがでしょうか?」
確かに、クモイは礼服を着ていなかった。
その代わり、長袖のシャツに靴磨きのクリームで汚れたような白っぽいカーディガンを羽織り、下は裾が解れた紺色のパンツを履いている。そして防寒として、白鼠色のマフラーと帽子を被っていた。
「……」
リシュールが驚いてぽかんとしていると、しびれを切らしたクモイが「あの、リシュ、聞いていらっしゃいますか?」と質問を重ねた。
「……どうなってんの?」
リシュールは率直な感想を述べる。クモイがマントを出入りすることも不思議だったが、着替えができることはさらによく分からなかった。
すると、クモイが親切にもその問いに答えてくれる。
「マントの中は私が生活できるように、一通りのものが揃っているので着替えてまいりました」
リシュールは懸命に想像力を働かせるが、彼の言っていることが理解できなかった。眉を寄せ、もう一度尋ねる。
「……どういうこと?」
するとクモイは、どう説明したらいいのか悩みつつも、言葉を選びながら答えてくれた。
「そうですね……。リシュの屋根裏部屋のような場所が、マントの中にあると思っていただければいいかと」
リシュールは、マントの中に屋根裏部屋がある状況を想像した。
確かにクモイが出入りすることができるのだから、空間のような場所があるというのも分からないでもない。
だが、ただでさえ人一人がマントに入ること自体不可思議なことなのに、布一枚の厚さしかないマントの中に部屋が一つあるというのは、魔法の仕業とはいえ、どうにも納得するのが難しかった。
――入ってみたら、分かるのだろうか?
リシュールはふとそんなことを思う。分からなければ自分が体感してみたらいい。靴磨きの技術も、実際に孤児院で練習して習得したものだ。これが言葉で説明されても分からないのだから、マントの中の状況も実際に体験したみたほうが早いのではないかと思った。
しかし、仮に「中に入りたい」といって入らせてもらったら、二度と出られないということもあるかもしれないとも思う。
確かにクモイは、リシュに仕える従者になると言った。
名前を与えたら喜び、家事も全て担う気も満々だ。
しかし、何故自分のような貧乏人に仕えようなどと思うのか理解ができず、何か裏があるのではないかと疑っていた。
「リシュ?」
リシュールが何も答えなくなったからか、クモイが心配そうに顔を覗き込んでいる。リシュールははっとして、「魔法ってすごいんだね」とだけ言う。好奇心はあるが、今はそのときではない。
「何はともあれ、クモイの服も『まとも』になったことだし、僕がいつもいる定位置に行こう」
「はい」
リシュールはクモイと共に大通りに出ると、一つ奥の道に入るための道の入り口付近で、仕事の準備をし始める。手持無沙汰なクモイは、その間に通りの様子をさりげなく眺めていた。




