1話 招かれざる客①
マイペースな発明家ドワーフ(社会性マイナス)となんちゃって王様(光属性)の旅物語だったりする。
その小さな家は栄えた王都のすぐ近くにあった。
通りは人々で賑わい、ものの売り買いに勤しむ商人たち。
建築物で有名になったこの王の国にふさわしいほど、活気あふれる大工たちの働く声が聞こえてくる。
その小さな魔女の家は、そんな賑わう王都の近くにあったのだが。
なぜか、その家の周囲だけは異質な空気を放っていた。
まるでここだけ時空が異なるかのように、あたりの空気が不気味なほどに変わっている。
「ほんとうにここでいいの......?」
戸惑いを滲ませた声には「帰りたい」「引き戻りたい」という思いが透けていた。
少女の切望的な思いをひれ伏す。
「魔女に囚われた仲間を取り返すんだ......!! それに魔女を倒せば、モンスターの金銀を還してくれるかもしれない」
少年と少女はいかにも、駆け出しの冒険者という身なりをしていた。
装備や武器はブランドではなく、無名ブランド。欠けや汚れが多い、サイズが合ってなく、中古で買ったものか貰いもの......または拾い物ではないかと思われた。少女はお洒落にとんがり帽子にケープ、手には太い木の棒を手触りよく加工した杖。杖の先には美しい宝石のような石があるが、これは魔石ではなく、ただの石飾りだ。この日銭で食いつないでいる彼女らに、本物の魔石を買う経済能力はない。
少年が身に着けているものは鎧だ。鎧は上半身のみで下は短ズボン。これも財布の事情だ。鎧を着慣れていないのかサイズが合わないからなのか、体を動かすために、ガチャガチャとした音を立てて忙しない。腰にかけた剣はシンプルで装飾類が一切ない。ちなみに中の剣は錆びている。
この少年も金欠だった。
彼らは冒険者だ。
モンスターの胃を切り開くと金銀が出てくることが判明して以来、パンドラの箱扱いされていたダンジョン人気が一気に高まった。
廃墟と化し、税人も警備人も見張りもいなかったダンジョンに、ならず者たちが金銀目当てに押し寄せるようになったのだ。
だが、そんなブームも今はもはや斜陽だ。終わりつつある。
そんなことにも気づかずに、この少年少女は今からでも金を稼ごうと夢を追っていた。
否。本当は気づいているのだ。
少年の「魔女を倒せば、モンスターの金銀を還してくれるかもしれない」という言葉。
魔女のせいではないのだが、モンスターから得られる金や銀、宝石といったお宝が減少ーーいや激減していたのは確かだった。
「うわぁぁああああああああ!!!!!!!!」
少年少女は絶叫した。少年は訳も分からず、身体が持ってかれ、視界が暗転した。揺れ動く視界の中で、同行の少女が口を開け絶句しているのが見えたのを最後に、視界が処理できないほどに揺れる。自分が逆さになり、振り子のように振り回されているのだと気づいたのは30秒後だ。
だが気づいたところでどうしようもできない。
突如、揺れが止まった。少年は首を動かし、自分が今、緑色の巨大な植物に弄ばれていると気づいた。
巨大な植物と目が合う。実際は目なんてないのだが、無数に並ぶ牙と開閉できる口部分が、植物の顔のように見えた。
切り裂かれたような口が、げらげらと馬鹿にして嗤っているようにすら思えて、少年は苛立ちを募らせた。恐怖よりも苛立ちのほうが湧き上がる。
「このっ!!! 降ろせっ!!! おまえなんか切り刻んでやるっ!!! 魔女の手下がっーーー!!!!」
威勢よく吠える。
動かせる手足をバタバタと動かすが、宙を空回りするように動くだけで、植物には指一本、届かない。
少年の叫ぶ声に我に返った少女は、固まった身体を動かして、ぎこちない口調で呪文を唱える。
「エクストラ ファイア」
草には火。肉にも火。
とにかく火は万能。
エクストラに恥じるようなしょぼい日がぽわん、と現れた。
まっすぐにゆったりと前に前進する。
だが巨大な弦植物に届く前に空中でかき消えてしまう。
火力不足だ。
「しょぼい......」
少年はつい本音を口に出してしまった。
巨大植物は、何本あるかはわからないが、弦で杖を取り上げ、無数の牙でかじりついた。真っ二つになった杖が、口の中でさらに粉々に咀嚼される。
「逃げるんだっ......おまえもこう(・・)なっちまう......!!」
こう(・・)は粉々に砕け散った木の破片たちだろう。
冒険者の少女は目尻に涙を浮かべながらつま先の向きを変えるーーー
「五月蠅いのよ」
少女が目が振り返った先には、女が立っていた。仁王立ちだ。
悠然とし傲岸不遜という言葉が似あうほどの佇まい。
「ま、魔女っーーー!!!」
「魔女ってなによ?」
クララ・ヴィクル。
ここの家の持ち主だ。
エルフほどではないが尖った耳。金縁の眼鏡。
Vネックのジャンバスカート。
魔女の要素は一切ない。
「あんたら、さっさと出て行きなさいよ。ここの土地の契約者はわたし(・・・)なの。さっさと出て行きなさい」
ハエを追い払う仕草で手を振る。
クララに気づいた植物モンスターは、玩具の少年から弦を離し、クララに寄り添う。
植物モンスターはクララには大人しく寄り添い、まるで犬が愛撫を求めるようだった。
「モンスターを使役しているのか......魔女」
絶句のあまりに声が掠れた。
「モンスターを使役しているのはテイマーだってそうじゃない? わたしは魔女じゃないわ。悪い事もしてないのに、なんで悪者扱いされなきゃいけないのかしら? まだ人も殺してないのに。そこらへんの犯罪者よりよっぽど良心的で優しいと思うけれど?」
テイマーはモンスターを支配している。
だがクララはモンスターに愛されている。
これがクララが魔女と言われる所以だった。
人にはまともに好かれずに人の和の中で孤立するが、なぜか意思疎通すらできないモンスターには好かれる。
クララは常常、自分の体質を不思議に思っていた。でも今は同類なんでしょうね、と興味をなくしている。
「さすがは魔女......会話が通じない」
「わたしは店が閉まる前に行かなきゃいけないのよ。魔女と英雄ごっこをする気はないの。さよなら」
片手をあげ、足早に去っていく。
「ああ」と思い出したように足を止める。
「そうだ。スイミー。それ。今日のご飯よ。よかったわね」
それ(・・)。
それとは自分たちのことを指しているのだと勘づいたとき。
少年少女は頬をピクピクと恐怖でひきつらせた。
スイミー。
植物のくせに泳ぎもできた事から名付けた名前だった。このモンスターの正式名称はギルフィガー。指を嚙みちぎる、だ。
本来は擬態植物として、可愛らしい姿に化けていることが多い。迂闊に近寄ると杖、武器を噛みちぎられるという意味だ。
モンスターだが肉は最低限しか好まず、専ら好むのは金属類や魔石の類だ。
取り込んだメタル、魔石は自身の強化へと使う。
草木に擬態させた身体は触れると、硬さがあり、よく見れば金属特有の光沢があり、その身体は金属でできているとわかる。
クララは、このモンスターをスイミーと呼ぶ。
泳げたからスイミーだ。
この身体が重い植物モンスターがなぜ泳げるのかは謎だ。
スイミーはクララともっと遊びたかった。
スイミーはクララに突撃した。
後ろから不意打ちで攻撃(スイミーにとっては愛撫)されたクララは驚きで意識が真っ白になった。
頭の上から齧りつかれた。身体の半分はスイミーの口の中。
じゃれついている? これが?
(わたし死ぬかも......。飼い犬に手を噛まれるってこういうことなのね。これはモンスター。モンスターはペットになり得ないのね)
クララは薄れゆく意識の中でそんなことを思った。
クララは絶望的になりながらも、それ以上に達観というか、客観的すぎるというか、きょとんとした性格の持ち主だった。
クララはシャクシャクと咀嚼されている。
じたばたともがいていた手足ももう力を失って、諦めたようにしおれている。
そう。クララは死を受け入れたのだ。
このクオータードワーフの33年の生に悔いはなし......。
旅を書いてみたいと思って始めた話。
プロットもビジョンもないので、物語として〆があるのか、とっても不安。




