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後編 3章 トラブルの後に/ 4章 近づく二人

 3章 トラブルの後に

「宮崎さん、この資料どこに置きました?」

「あぁ、その資料ならこっちに置きましたよ」

 宮崎さんが机の上に並べている資料の中から、一つを取って俺に渡してくれた。

「ありがとうございます。先輩に言われて三日目で、必要な資料がやっと揃ってきましたね」

「そうですね」

 先輩に言われた後、二人で話し合ってイベントに必要な事を、仕事の間に調べて資料にまとめる事にした。

「宮崎さんがまとめた情報が、解りやすくて助かります。僕だったらすぐ別の事を考えちゃって、こんなにしっかりまとめられないですよ」

 宮崎さんの資料を見ながら、正直な言葉を話した。 

「そういってもらえて嬉しいです。山下さんも凄いです。必要な事がすぐ出てきて、私一人だとこんなには出なかったと思います」

「そうですか?先輩から言われた時は、どうしようかと思いましたけどね、なんとかスタート地点までには来れたみたいですね」

 俺はハハハと笑った。宮崎さんは俺を見てくすっと笑った。

「あれ?初めて笑いました?」

 俺の知っている中で、宮崎さんは笑った顔を見たことがない。というかあまり人と仲良く話している所を、見たことがなかった。笑った顔はいつもより柔らかく可愛かった。

 俺の言葉に宮崎さんは、すぐうつむいてしまった。

「どうしました?」

 下を向いている宮崎さんの顔は良く見えないが、どうやら少し恥ずかしいようだ。

「気にしないでください」

 宮崎さんは少し早口でまくしたてる。

「すみません。気に触りましたか?」

 俺の声を聞いて、宮崎さんは慌てた様子で俺の方を向いて、両手を振って違うとアピールする。

「私こういう事にあまり慣れてなくて、そのすみません」

「謝らないでください。気にしてませんから、こちらもすみませんでした」

 俺は恥ずかしくなり手を動かし始めた。

「作業の続きしましょう」

「そうですね」

 それから俺と宮崎さんは、黙って作業をした。それから数分後、俺はこの空気に耐えられなくなって宮崎さんに話かけた。

「宮崎さんはお友達と遊ぶ時って、何するんですか?やっぱりカラオケとかですか」

「えっと、私は友達少なくて、普段は一人でいることが多いですね」

 しまった。気まずい質問をしてしまった。どう返すのが正解?返し方が解らない。悩んでいると宮崎さんが気を使ってくれたのか声を掛けてくれた。

「私が一人が好きなんですよ。山下さんは、お休みの日は何してるんですか?」

「僕ですか?そうですね。ゲームが好きなんでテレビゲームとか、友人と一緒だったらボードゲームしてますね」

「ボードゲームですか?将棋とかですか」

「将棋も一つですが、今は色々ありますよ。知らないですか?」

 俺はいくつかボードゲームの、名前を出してみた。宮崎さんはどれも知らないようだった。

「聞いていると、人と一緒にするみたいだから私は苦手みたいですね」

 宮崎さんは部屋の時計を見て、時間だからと帰って行った。俺も区切りがいいところまでやって、今日は帰ることにした。

 次の日、午前中に何件か営業先に顔を出して、昼から宮崎さんと、企画の打ち合わせをする予定になっていた。

 昼食を買うついでに、休憩に食べるお菓子を買うことにした。宮崎さんは甘いのとしょっぱいのは、どっちが好きかな?前に喫茶店で会ったからコーヒー好きなのか?それだとクッキーとかがいいかな?よし、クッキーにしよう。

 俺は昼食とクッキーを買って、会社に戻ってみると、なんとなく慌ただしくしていた。近くにいた同僚に話を聞いてみた。

「あぁ、山下さんおかえりなさい。なんか急に先方が仕様を変更したいって、言ってきたらしいですよ。しかも明日までに、原案出し直してって言われたらしくて、朝から何回かダメ出し食らってみるみたいです」

 同僚はため息をついた。会社の名前を聞いてみると納得した。

「あぁ、あの担当者さんね。久しぶりにあたったのか」

 俺も以前、大変だった覚えがある。今では担当者さんの性格も解ってきているので、問題なく仕事ができるようになってきた。対応している人の名前を聞いてみると、担当している二人は、担当者さんとは初めてのようで、その一人が宮崎さんだった。

「あの人は、初めての相手に無理難題だす癖があるもんね。そこそこ大手だから無下には出来ないし、俺も顔出してみるよ」

 俺は荷物を置いて、会議室に向かった。

 トントン。ノックして会議室に入って見ると、宮崎さん達は頭を抱えていた。疲れ切った顔をこちらに向ける。

「宮崎さん。お疲れ様です。すいません。今日は立て込んでて、話し合い出来そうにないです」

 声も疲れている様子だった。

「どういう状況か説明してもらえますか?お手伝いできるかもしれないです」

 俺は宮崎さんから話を聞く。

「宮崎さん。提案とかしてますか?」

「特にしてないです」

「あぁ、やっぱり。あの担当者さんは、色々言ってくるけど自分でまとめきれないんですよ。こっちから提案して挙げないといけないんです」

 資料を一通り見て、二人が提案したイラストをみる。だいたい言いたい事は解った。

「こことここを、こういう風にしたらどうかって聞いてみてください」

「え、ここですか」

 もう一人のイラストレーターの子が信じられない表情をする。名前は貴宮さんだったかな?あまり話したことがない人だった。

「そうです。結局、この人の言いたいことは、ここのように思えます。一回提案してみてください」

「解りました。聞いてみます」

 宮崎さんは電話しに会議室を出ていった。

「山下さんはこの担当者さんの事を、良く知っているですか?」

 俺は頭をポリポリ描いた。

「まぁ、少しはですね」

 宮崎さんが驚いた表情で戻ってきた。

「これでオッケー出ました」

「本当ですか」

 貴宮さんはホッとした様子だ。

「じゃ、俺はこれで」

 俺は会議室を出ていった。二人は無事に定時には終わったみたいで、貴宮さんは疲れ切った様子で帰宅していった。

 俺と宮崎さんはコーヒーとクッキーを食べながら、会議室で休憩していた。

「今日は本当に助かりました」

 宮崎さんは深々と頭を下げる。

「いえいえ、大したことしてないですよ。頭を上げてください」

 彼女は頭を上げてため息をついた。

「どうしました?」

 普段はため息一つしない宮崎さんだったので、俺は不思議に思って宮崎さんに聞いてみた。

「私、頭が回らないんですよね。昔からつまらないって良く言われるんですよ」

 宮崎さんは自身がなさそうに、机に置いてある缶コーヒーを見つめていた。

「山下さんは凄いですよね。すぐに答えを出すことができるんですから」

 俺は元気づけようと言葉を探した。

「宮崎さんの方が凄いですよ。書類の間違いなんか見たことがないし、しっかりしているじゃないですか!」

 彼女は乾いた声で笑った。

「ありがとうございます。でも私は山下さんみたいに少しでも、頭が回るようになりたいです」

「え、僕みたいにですか?じゃ、試しにボードゲームでもしてみますか?」

 宮崎さんが、ゲームみたいな事は興味ないこと知ってるのに、俺は何を言っているんだ。俺は慌てて取り消そうと宮崎さんの顔をみた。宮崎さんはなんか考えてる様子でこっちをみる。

「ボードゲームですか。そうですね。いい考えかもしれませんね」

 俺は思いもよらない言葉に驚いた。

「え、ホントですか?」

「はい。教えてくれますか?」

 宮崎さんは少女のように笑っていた。その顔を見てドキッとしてしまった。バレないように表情を作る。

「はい」

 この一言が精一杯だった。


 4章 近づく二人

 約束をしたその週末に早速、以前あったことがある喫茶店で待ち合わする事になった。

 少し早く待ち合わせの時間に着いて、宮崎さんにどのゲームが合うか考えているが、協力系、対決系、頭を使う系、直感系、ボードゲームの数がありすぎて、どのゲームにするか迷ってしまう。事前に聞いておくべきだったが、彼女と行けることが嬉しくて、その気持ちを表情に出さないように仕事をするのが精一杯で、聞くのを忘れていた。

 とりあえずいくつか候補をメモに書いてみた。休憩にコーヒーを一口飲む。コーヒーの苦みと、コーヒー豆の引き立ての香りが頭をスッキリさせてくれる。

 カラン、コロン、心地よい扉の音と共に、宮崎さんが入ってきた。俺は手を振って居場所を伝える。宮崎さんは襟付きのシャツにチノパンとシンプルだが、機能的な服装で来ていた。

「待ちましたか?」

「いえ。僕も今、来たところです」

 宮崎さんも、コーヒーを頼んで椅子に座った。

「今日はどこに行くんですか?」

「今日はこの近くにボードゲームができるカフェがあって、そこに行こうかと思っています。あ、カフェと言っても、こんな本格的なコーヒーとかは出ないですよ。あくまで軽い飲み物です。時間制で色々なゲームが置いてあるんです」

「そんなところがあるんですね。知らなかったです」

 宮崎さんの声は、楽しみなのか緊張しているのかいつもの仕事より少し高い様に感じた。

「そこでですね。一つ質問ですが、どんなゲームをしてみたいですか?」

 俺は宮崎さんに、候補に上げたゲームを少し説明した。聞いている時の宮崎さんは、得に表情を変える事もなく、仕事の様に真剣に聞いていた。内心この説明で良かったのか考えてしまう。

「なるほど、色々あるんですね。全く知らない世界です」

 どうやら理解できたようでホッとした。

「そうですね。この中だと、せっかくなら私が苦手な事をやってみたいですね。例えば協力系とか、直感系のゲームですね」

「その2つですね。解りました。そういえば宮崎さんはテレビゲームとか漫画とか読みますか?」

 宮崎さんは首を振った。

「その二つはあまり興味がないのでしません。どうしてですか?」

「魔法とかエルフとか、ファンタジー要素のあるやつでも大丈夫かなと思って」

「そういったファンタジー要素とかは、小説は読むので解りますよ」

 勝手に宮崎さんはファンタジーとか読まないものと考えていたから驚いた。

「意外でしたか?」

 どうやら表情に出ていたらしい。

「はい。意外でした」

「私、小説は結構なんでも読むんですよ」

 彼女はふふふと笑った。

「人と話すより、小説を読むほうが楽しくて、昔からそればっかりだったんです」

 宮崎さんは少し寂しそうな顔をした。

 俺は空気を変える為に話題を変えることにした。

「僕もファンタジーの小説は読むんですよ」

 俺はいくつか読んだ事のある作品を宮崎さんに言ってみると、宮崎さんはその全部を読んでいた。

「と、そろそろ移動しないとボードゲームする時間がなくなりますね」

 あぶない、あぶない。宮崎さんと意外な共通点の話が、楽しくて時間を忘れていた。

「そうですね。そろそろ行きましょうか」

 外に出ると少し冷たい風が頬にしみて、冷静になることが出来た。目的地に向かっている間、宮崎さんに他の好きな小説のお勧めを聞いてみると、前に遊真に勧められて読んだ本の名前もあって、共通点が意外に多いことに嬉しくなった。

 ボードゲームカフェに来て、初めに直感系のゲームをしてみた。宮崎さんはじっくり考えて決めるタイプのようで、四苦八苦していた。普段見ない表情をしていたので、こちらも思わず笑ってしまった。

「山下さん。失礼ですよ」

 宮崎さんは、少し笑いながら注意してきた。

「宮崎さん。あまり説得力ないですよ」

 俺も笑いながら返す。

「あれ、カイくん?」

 声が聞こえたので、振り向くと遊真がいた。横には結婚間近の彼女もいた。彼女とは何回か会っていて面識はあった。

「おぉ。偶然だな」

「そうだね。なんか邪魔しちゃった?」

 遊真はちらっと宮崎さんの方を見る。

「いや、全然。よかったら一緒にしないか」

 いつも一緒にしているので気軽に誘ってしまった。宮崎さんの方を見る。

「私は良いですよ。お友達ですか?」

「はい。さっき話した遊び仲間です」

 俺は宮崎さんと遊真に、お互いの事を説明した。

「そしたら、僕達も一緒に混ぜてもらいますね」

 遊真たちが入って四人になったので、宮崎さんがやりたがっていた協力ゲームをやることにした。宮崎さんは、初めやり方がわからず右往左往していたが、一回したら解ったようで、きっちり役割をこなして楽しそうにしていた。それから何回かしたが、宮崎さんがいなければ成功していなかった回が、半分はあったほどだ。

「カイ君にこんなしっかりした知り合いがいたとは、驚きです」

 と帰り際に言われたくらいだ。俺と宮崎さんは時間になったので外に出た。外は日が暮れ始め、少し薄暗くなって来ていた。俺達は駅まで歩いていた。

「この時間になったら寒くなってきましたね」

「そうですね」

 すれ違う車のライトが、少し眩しく感じる。

「今日はどうでしたか?」

「私の知らない世界で、とても楽しかったです。今日は連れて着てもらって感謝しています」

 二人になって気付いたが、彼女の声が少し優しく感じる。

「そう言ってもらえて嬉しいです」

「私、お休みはあまり人と過ごさないので、新鮮でしたそれに」

 宮崎さんは少し間が空いてフフッと笑った。 

「山下さんが会社と全く違う様子だったので、珍しいものがみれました」

 宮崎さんは今日は良く笑うな。その笑顔を見ると嬉しくなる。可愛いな。

「山下さん?」

 宮崎さんが不思議そうにこちらを見ている。しまった。俺は慌てて返答した。

「こっちもです。宮崎さんも今日は良く笑いますよね?普段から、今日の様にすれば良いのにって思いましたよ」

「山下さんだからですよ。山下さんは、何だか話しやすいからつい話しちゃいます」

 え、それってどういう事?そこでスマホの通知音がなった。確認すると遊真からだった。

ー頑張れー

 どうやら遊真には、お見通しのようだった。俺はいつもここぞと言う時に、何も言えずいつも後悔していた。俺は決意した。

「宮崎さん。最後にちょっと話したい事あるんですが、良いですか?」

 彼女は不思議そうにこちらを見た。

「良いですけど、どうしました?急に怖い顔して」

 俺達は近くの公園のベンチに座った。辺りはすっかり暗くなっていて街灯が彼女を照らす。

「えっと、僕ですね。いつも最後の最後で言いたいことが言えないんですよ」

 俺は宮崎さんの顔を見る。彼女も俺の事を見てくれている。心臓の音がどんどん大きくなっていく感じがした。

「はい」

 宮崎さんは静かに聞いてくれている。

「今日だって宮崎さんと一緒に遊べるのが、夢みたいなんです」

「私もです」

 宮崎さんの優しい声が聞こえる。次の言葉がどうしても出ない。俺は少し深い息を吸って、気持ちを落ち着かせた。

「よかったらこれからも、一緒に遊びたいと思ってるんです。俺の彼女になってくれませんか?」

「へ」

 宮崎さんの声がいつもより二段階位、高い気がした。

「わ、私で良いんですか?私つまらないですよ」

 俺は宮崎さんの目をまっすぐ見て、首を振った。

「全然つまらなくないです。むしろ今日一日とても楽しかったです」

「で、でも私は本しか読まないから話題もないですよ」

「その本の話も今日は楽しかったんです。一緒にこれから本を読みましょう」

 彼女はうつむいてしまった。

「宮崎さん?」

 俺は彼女に声をかけた。

「私で良いんですか?」

 山下さんの声は少し震えていた。

「山下さんが良いんです」

 俺は強く気持ちをぶつけた。そして彼女は俺の言葉を聞いてゆっくりと答えてくれた。

「わ、私でよければよろしくお願いします」

 彼女の言葉を聞いて、俺は嬉しくて声が裏返ってしまった。

「本当ですか」

 山下さんはゆっくりと右手を出した。

「私の知らない世界をたくさん教えてください」

「はい」

 俺は彼女の手を握り返した。彼女の頬に一粒の涙が流れ、彼女は微笑んだ。   終わり



ボードゲームと恋愛ーーありそうでなかった組み合わせで書いてみました。

楽しんでいただけだしょうか?

もっとボードゲームの要素を増やした作品が読みたい!などご意見もお待ちしています

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