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9回想

ここは――見覚えのある施設だ。

過去に、俺が生まれた場所…俺は夢を見ていた。

偶然なのか、それとも自分の“やるべきこと”

を考えながら寝たからなのかは分からない。


「5番、身体検査をするから、こちらに来い」

5番――俺の本名と言えるかもしれない呼ばれ方だ。


人造人間の体では子を産めない。

そこで、子供を欲する人たちのために、幼い体の人造人間の脳に空のチップを埋め、

疑似的な子供として提供しようという試みが始まった。


試作品として10人の子供が作られる、

そのうちの1人が俺だ。


「身体検査、異常なし。

『お客様』が来られてる、お前も自分を売り込んでこい」


心底面倒だが、言われたとおりに向かう。


「おお!君はサッカーが好きなんだね」


「うん! 将来は最強のサッカー選手になるんだ!」


「いいねえ、私はこの子が気に入ったよ。

お前はどうだい?」


「ええ、私もこの子がサッカー選手

になるところを見届けたいわ!」


「決まりだな! ああ、そこの君、

この子を我が家に迎えたい」


「はい! ありがとうございます! 

それではこちらでお手続きを……」


3番と言われていたヤツが買われたようだ。


この頃の俺には到底理解できなかったが、

不死となった弊害で成長を失った者たちにとって、

将来性のある者は“生きる糧”になったのだろう。


つまり、子供というより“夢”を買っているのだ。


今なら、なんとなく理解できる…

俺は子供が欲しいとは思わないが。


「君は、何か将来の夢はあるかい?」

お客様が尋ねてくる。俺の品定めをしに来たのだ。


幼ブレイス「いえ…特に…」

「そうか…じゃあ、何か好きなものは?」


「いえ…特に…」この言葉を一日に何度発したか

分からない。毎日、こんな感じだ。


スポーツに興味はないし、特別好きな食べ物もない。


そもそも、やりたいことも目標もないんだ、

好きで売られているわけでもないしな。


困ったように、あきれた様子で

お客様が去っていく。


別に、あんな奴らどうでもいい…でも、なぜか腹が立つ。


“無価値”なモノとして扱われるのが気に食わなかったんだ。


今日も売れずじまいだ。


他の子供もお客様もどうでもいい。

だが、俺を“無価値”なモノとして扱われるのが許せない。


だから、いろいろと学び始めた。


掃除をメインに、家事を完璧にこなすための技を磨く。


ここにいる子供たちの誰よりも早く、

完成度も高い、これなら、無価値とは言われるまい。


「君は、得意なこととかあるかい?」


今日もそんなことを聞かれたので、俺がいかに他の子供より優秀かを教えてやった。


「そうか…君は頑張り屋さんなんだね。

それ以外はどうしてる? 何して遊ぶのが好きなんだい?」


遊びなんか興味ない。実用性がない。そんな風に答える。


「うーん…ウチはお手伝いさんが

欲しいわけじゃないからねぇ」


そう言いながら、どこかへ行った。

俺の価値を理解できなかったらしい、と思った。


そいつらは次に6番と話し始めた。


6番「僕はヒーローになりたいんです! 

悪いヤツをやっつけて、皆さんを守る!

そんなヒーローに!」


「正義感があって、言葉遣いも丁寧だね」


「とってもいい子! この子をうちの子にしましょうよ!」


「決まりだな! これからよろしくね!」


6番も売れたようだ。


言葉遣い…なるほど、礼儀か。

良さをアピールするには、見た目も動作も言動も、

綺麗でなくては、価値が低く見えてしまう。

そうか、そうか。


俺は早速、勉強を始めようとした、

すると8番が話しかけてくる。


8番「ねぇねぇ、5番くん!何してるの?

一緒に花壇のお花を見に行かない?」


今は集中したい。

でも、しつこくされるのも面倒なので適当にあしらおう。


幼ブレイス「勉強をしてるんだ。

礼儀・作法・印象よく聞こえる言葉遣いのな」


8番「それって面白いの?」


幼ブレイス「面白いわけないだろう」


8番「じゃあ、なんでその勉強してるの?」


幼ブレイス「実用的と判断したからだ」


8番「じつようてき?」


幼ブレイス「知っておくと、

いろいろ得できるってことだな」


8番「どんなお得があるの?」


幼ブレイス「相手の心象が良くなる。

実際よりも高く評価されるんだ」


8番「ひょうかされると、どうなるの?」


幼ブレイス「分からんが、

こんな暮らしとはおさらばできるだろう」


8番「ここを出たいの?」


うんざりしてきた。

それが顔に出たのか、ため息をつくと、8番が口を開く。


8番「あー!またムスッとしてる!

いつもすぐムスッとするんだから!

お花でも見に行って、リラックスしに行こうよ!」


幼ブレイス「他の奴を誘えよ、俺は忙しいんだ」

8番「他の子たちはみんな、もういないよ?」


見回すと、俺と8番以外はいなかった。

皆、売れたのだ。何か分からない焦りがこみ上げる。


買われたいわけじゃないが“無価値”と言われている気がする。


嫌だ。俺は――


8番「ねぇってば!」


言葉にできない気持ちが込み上げる。


悔しいのか、怒っているのか、よく分からない。

思わず怒鳴ってしまう。


幼ブレイス「うるさい! 俺の邪魔をするな!

お前も自分のアピールの仕方でも考えたらどうなんだ!

花なんて、実用性のないものに気を取られてると――」


言い終わる前に、8番は悲しそうで、

憐れむような顔をして俺に背を向け、部屋を出ていった。


それから、勉強を再開した、俺は無価値じゃない。


売れていった奴らは、たまたま気に入られただけ、

俺の価値を理解できない奴らに買われただけだ!

明日は、しっかり俺の価値を証明してやる。


幼ブレイス「ですから、こういったところは確実に…

いえ…趣味ということでは…」


今までと内容は変わらないが、

言葉遣いやボディランゲージは活用できている。

まだ間に合わせではあるが、美しく映っているはずだ。


「そっかー……じゃあ、次はあなた!

あなたは何が好きなの?」


8番「わたしはお花が好き! 

将来はお花屋さんになりたいの!」


「とってもいい夢ね!ねえ、

この子を迎えましょうよ。私、この子が気に入ったわ」


「僕もだよ!君!これからよろしくね!」


8番は連れていかれ、俺は売れ残った。


8番がこちらを見ていたようだが、気にしている余裕がない。


…なぜだ?


なぜ、あんな“実用性”とかけ離れた奴が

気に入られて、勤勉で実力のあるこの俺が――


涙を流し、頭を抱えてしゃがみ込む。


幼ブレイス「俺は……俺は!」


部屋に戻されると、

次は何を学べば“認められる”のか、それを模索していた。

読んでくださってありがとうございます。

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