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7救済

「いてて…ここはどこだろう…俺は何をしてたっけ?」


目を覚ますと、見覚えのない部屋。

慌てて体を起こす。


そうだ!あれからどうなった?

小屋から老人が出てきて…それで…。

必死に思い返そうとしたとき、声が聞こえた。


「おや、起きたかい」


今ならハッキリ見える。

老いた人間は初めて見たが、女性なのは分かる。

少なくとも知り合いではない。


ブレイス「あなたは?ここはいったい?」


マルセラ「アタシはマルセラ。

ここは小さいけどアタシの家だよ。そういうアンタは?」


ブレイス「俺はブレイス…その…」

チップ持ちの軍隊とバレたらどうなるか分からない。


どう答えるか迷っていると、

マルセラと名乗る老婆が口を開く。


マルセラ「ブレイス……それは本名かい?

コードネームみたいだね。アンタ、新居住区の軍人だろ?」


ブレイス「チップ持ちの軍人と知って助けたのか?」


マルセラ「『殺さないでくれ』なんて言うチップ持ちは

初めて見たけどね。まあ、とにかく…

腹が減ってるんだろ?これでも食べな」


そう言って、マルセラはシチューとパンを出してくれた。


「…いただきます」

腹が減っていたことを忘れていたが、

目の前の食べ物にすぐ食らいついた。


「美味しい…」

今までもシチューは何度も食べたことがある。

けど、こんなに美味しいシチューは初めてだ!

パンもだ!パンってこんなに美味かったっけ?


気がつくと、涙がボロボロ出ていた。


「ううう……」

声も抑えられない。

夢中で食べて、食べ終わってもしばらく泣いた。

助かった……その実感が持てた。

俺は助かったんだ!


マルセラが食器を下げ、洗っている間に

少し落ち着きを取り戻した。

助かったけど、これからどうすれば…。

そんなことを考えていると、

洗い物を終えたマルセラが戻ってきた。


マルセラ「何があったんだい?」


俺は事情を話す。

おそらく雷に当たったこと、

新しい自分が出てきたこと、命の危機を感じ、

なんとか逃げたこと。


マルセラが少し考えてから口を開く。


マルセラ「なるほど…雷ねぇ…合点がいったよ。

それでか…アンタ、そこの鏡で自分の顔を

しっかり見てみな」


そう言って指を指す。

よく分からないが、まあ見てみるか。


鏡に映る自分の顔を見てみる。

…特に変なところは見当たらない。

近づいてみる…。


これは…シワか?うっすらとシワのようなものが見える。

おかしい…。


この体の年齢は22歳くらいのはず。


交換時期はまだまだ先のはずなんだ。


人造人間の寿命は大体40歳で、

シワや白髪が生えるのは30歳を超えてからになる。

そんなに気を失ってたのか?


マルセラ「アタシは昔、人造人間の工場で

働いてたから分かるんだ。

アンタの体は雷に打たれ、極度の疲労で弱ってる…

そのせいで、寿命がかなり縮まってるんだよ。

余命はあと3日ってとこかね」


頭が真っ白になる。

…あと3日?

生き延びるためにあんなに必死に逃げて・・・3日?

「俺は…どうすれば…」

もう俺のチップは無効化されてる。

この今の俺は復帰できない…。

突然突きつけられる終わり、恐怖で体が震える。


マルセラ「震えてるヒマがあんのかい?

残された時間をどう使うか考えたほうが

いいんじゃないのかい?」


その通りかもしれない。


でも、何をどうすればいいのか全く分からない…。

助かったと思ったのに…。


生き延びることだけ考えて逃げたのに、

生きることもできないなんて…。


マルセラ「仕方ない子だねぇ…やりたいこととか、

やり残したことはないのかい?」


やりたいこと…昇進?本当に?やり残したこと…。


ブレイス「分からない…」


マルセラ「分からない!?」


ブレイス「今まで昇進することに執着してきたが、

何のために昇進を求めてたのか、

自分でも分からなくなった…」


頭がどうにかなりそうだ、自分のことなのに、

何も分からない、俺は今まで何をしてきたんだ?


マルセラ「どうやら、頭の中が整理できてないようだね。

気分転換に何か話でもするかい?」


ブレイス「ああ…でも何を話そうか」


そう答えるのが精一杯だった。

そんな場合じゃない、とは思ったが、

何も思いつかないのも事実だ。


どう頑張っても思いつかないんだ。

彼女の提案に乗るしかない。

何を話す気か知らないが、

このまま頭を抱えるよりはマシかもしれない。


そう思って、椅子に座る。

読んでくださってありがとうございます。

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