6孤立
足が重く、腹も減ったし、方向も分からない。
フラフラで壁に手を擦りながら、
行くアテもなく歩き続ける。
そして、また無線が鳴る。
無線「こちら臨時派遣小隊より本部へ。
当該マンホール周辺およびその内部周辺を見ましたが、
敵影なし。
ブレイス隊員の死体や痕跡もなく、
マンホールに罠の痕跡もありません」
無線「こちら本部。
敵がブレイス隊員の死体ごと無線機を入手している
可能性を考慮し、別の周波数を伝令に伝えさせる。
それまで、臨時派遣小隊および
ハンドル隊員はその場で待機し、周辺を警戒。
敵がブレイス隊員の軍服を着用している
可能性があることも考慮せよ」
無線「こちら臨時派遣小隊、了解」
無線「こちらハンドル、了解」
…もう、この無線機からは何も聞こえないだろう。
これで軍の動きを把握する手段はなくなった。
ここからは自分で考えて行動しなければ…。
まずは、この服装でも容赦なく殺される。
見つかるわけにはいかない。
次に軍の警戒態勢を考える。
自分が指揮を取るなら、
まずはサーバー施設の守りを固める。
これは今の俺には関係ない。
新居住区内も警戒態勢に入る。新居住区内には居られない。
監視塔の見張り……は、いつも通りだろうが、
地上で新居住区に近い位置にいたら撃たれる。
監視塔から離れた位置もドローンが
絶え間なく巡回するだろうからさらに離れる必要がある。
俺が地下から攻撃を受けた可能性を考慮し、
戦闘ドローンで下水道を巡回するだろう。
もう地下も安全ではない。
考えはまとまった。すぐにでも地下を出る必要がある。
もしかしたら新居住区に近い位置かもしれないが…
このまま居ても確実に見つかる。
一番近い出口が、
新居住区からかなり離れていることを祈るしかない。
近場で梯子を見つけた。
体は限界だが、休むことはできない。
残った力を振り絞り、梯子を登る。
マンホールの蓋が重たいが、
泣き言を聞いてくれる者は居ない。
全てを出し切るつもりで、
マンホールの蓋を背中で押し上げる。
見覚えのない景色。新居住区は遠くに見える。
偶然にも新居住区から離れるように歩いていたようだ。
匂いはないが、地上の空気を美味しく感じた。
すぐにマンホールの蓋を戻し、
新居住区に背を向けて歩き出す。
痛みと疲労、恐怖で涙が出るが、止まれない。
少なくとも、身を隠せる所を見つけるまでは。
木の多い山が近い。ここなら身を隠せそうだ。
ありがたいことに、勾配も緩やかで歩きやすい。
しばらく歩くと、小屋が見えた。
普段なら住人が敵かどうか考えるが、
今のブレイスにそんな余裕はなく、ただ小屋に向かう。
すると、小屋から人が出てきた。
顔にシワがある!チップ無しだ。
チップ持ちなら、老いた見た目を放置せず、
新しい体に乗り換える。
若々しく健康的で、運動能力も高い体に。
脳裏によぎるハンドルの言葉。「恨まれて当然」
おそらく敵対することになる。
まだこちらに気づいていない。
ブレイスは銃を取り、構えようとする。
しかし、体力が限界にきていたブレイスに
銃を持つ腕力はなく、銃を落としてしまう。
気づかれた!相手は老いているが、
死に体のブレイスでは勝てない。
ブレイス「お願いします! 殺さないでください!」
最後の抵抗、それは命乞い。
この体のどこにそんな力が残っていたのかと
思うほどの大きな声に、ブレイス自身も驚いた。
視界が涙で滲む。相手の顔もほとんど見えない。
諦めて目を閉じた瞬間、ブレイスは眠るように気を失う。
──もう、体力は残っていない。
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