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10年後の現在
静寂に包まれた廃屋の一角。
崩れた石壁のすき間から、冷たい風が吹き込む。
ライアスは、埃をかぶった木箱の上に座り、薄暗い灯火のもとで一冊の書を読んでいた。
装丁はボロボロだが、魔法陣と詠唱理論がびっしりと書かれている。
「ふん……矛盾してる。……この構成じゃ、魔力の流れが詰まる」
彼の指先が、虚空に魔法陣を描く。
線が浮かび、流れが生まれ——何の媒介もなく、術式が発動した。
光がゆらめき、小さな雷の輪がその場に現れる。
「……やっぱり。術式の“余白”に感応させた方が速い」
無表情に近い顔で、ライアスは魔法を解いた。
それは、学園の教師すらたどり着けない“感覚”による魔法制御だった。
魔導書を閉じる。
膝の上には、母の遺した日記があった。文字はすでに読み尽くし、ページの隅にまで彼の注釈がびっしりと書き込まれている。
「なあ、母さん。……こんなこと、知ってても、誰も教えてくれないんだな」
言葉にするでもなく、彼は目を閉じた。
外では風が鳴いていた。
過去の記憶のように、雷の音が、遠くで、かすかに響いた。