絵に宿る呪いと、愛の残り香(のこりが)
街灯の下、
灯りが点いたり消えたりを繰り返している。
その明滅する光の隙間に、あの晩餐会で見た亡者――キム・ジヨンさんが立っていた。
もう遠回しな言い方はやめようと決めていた。
「…あの日の真実、そして……あなたが本当に望んでいることは何ですか?」
すると彼女は、全く関係のない質問で話題を逸らした。
「あなた、私の娘ソヨンと…どんな関係なの?」
思わずうろたえて、言葉が詰まった。
「…何の関係もありません。ただ、僕が…一方的に好いているだけです。」
その言葉に、ジヨンさんの固まった顔に一瞬だけ微笑みが浮かんだ。
亡者になっても、感情は残るらしい。
再び尋ねた。
「あなたが亡者となった理由は何ですか?」
彼女は首を振ってこう答えた。
「あなたはまだ何も分かっていないのね。まあ、神というものはいつだって問いを投げかける存在だから。」
「答えを探すことこそが、あなたに課せられた試練よ。私が言えるのは……」
「その絵を破いて、燃やしてちょうだい。」
「それ以外は、自分で見つけなさい。」
唐突で不可解な言葉だった。
だがそれ以上、彼女は何も語らず――
雨音と共に、その姿は消え去った。
週末、土曜日から続く止まない雨。
時計は午後1時を指していた。
死んで過去に戻ってきて以来、初めての寝坊だった。
思考を整理したくて、よく通っていたカフェへ足を運んだ。
窓際の席に座り、ただ雨を眺めていたときだった。
誰かがそっと、隣に腰を下ろした。
「…宿題が難しいようじゃのう。」
驚いて顔を向けると、そこには年配の女性が座っていた。
言葉も出ず黙っていると、彼女は静かに続けた。
「無理に答えを探さなくてもいいんじゃよ。
あんたが導き出した答えこそが、あんた自身の真実になるのだからね。」
微笑みながらコーヒーを飲み終えた彼女は、傘を持ってゆっくりと立ち去った。
その瞬間、ふと彼女に“神の気配”が宿っていたのではと感じた。
もう一度、最初から考え直すことにした。
なぜ自分だけが過去へ戻ってきたのか?
なぜソヨンは、以前の記憶とは異なる言動を見せるのか?
ジヨンさんが残した言葉の意味とは?
疑問を一つずつノートに書き出したが、答えは出なかった。
だから、行動に移すことにした。
キム・ジヨンさんが言っていた『絵』が飾られている、ソヨンの家へ。
雨が降り続く週末だったが、迷わず向かった。
問題は――あの大きな絵をどうやって外に持ち出して、燃やすかということ。
玄関前でしばし考えた後、静かにインターホンを押した。
プランA
ソヨンを説得する。
父親がいない隙を狙う。
絵を持ち出して燃やす。
シンプルかつ明快な計画だった。
ピンポーン、ピンポーン。
ドアが開き、ソヨンが嬉しそうな顔で出てきた。
「ジウォナ? 何も言わずにどうしたの? 昨日、何か忘れていった?」
「うん、大事なものをうっかりしてて……あ、もしかして、お父さんは家にいる?」
「いるよ。でも、上がって。」
……計画は、最初から狂った。
だが、プランBも用意していた。
無理やり絵を持ち出して逃げる。
シンプルだが、実行は難しい作戦だった。
ソヨンに挨拶をし、小物を探すふりをしながら2階の奥の部屋へと向かった。
部屋の中には、相変わらずキム・ジヨンさんの亡霊が佇んでいた。
探し物をしているふりをし、ベッドの下、机の後ろ、ドアの裏まで演出し、
「お水をもらっていい?」とソヨンに頼んだ。
その隙に、絵に手を伸ばした瞬間――
脳内が真っ白になった。
亡者が命を落とした、あの日の記憶が波のように押し寄せてきた。
心臓がドンと落ちるように痛んだ。
そして……その場に、倒れ込んだ。
どれほどの時間が経っただろうか。
目を覚ますと、ベッドに横たわっていた。
身体を起こし、1階へと降りていった。
1階では、パク・ソジュン氏とキム・ジヨンさんが激しく言い争っていた。
「あなたは絵のことしか頭にない! こんなサイコと結婚したのが私の人生最大のミスよ!」
「サイコ? 君に芸術の何が分かる! ソヨンだって絵を描くべきだ!」
「ソヨンには、自分のやりたいことをやらせるべきでしょ! あなたに強制する権利なんてないわ!」
パク氏は怒りを抑えきれず、ドアを激しく閉めて出ていった。
その騒ぎに驚いたのか、あるいは音で目を覚ましたのか、
12歳のソヨンが部屋のドアを開けた。
ジヨンさんは娘を再び寝かしつけ、ソファに戻って静かに目を閉じた。
どれだけ喧嘩를 해도、彼女はパク氏を待ち続けていた。
深夜、「ピピッ」という暗証番号の音が響いた。
ジヨンさんはその音に反応して立ち上がった。
だが、入ってきたのはパク氏ではなかった。
黒い帽子、黒いマスクをした男。
すぐに警察に通報しようとしたが、揉み合いになった――
そして男は、ジヨンさんの腹部を刺した。
悲鳴を上げることはできた。だが、彼女は自ら口を塞いだ。
娘が寝ていたから。
もし殺人犯に娘の存在が知られたら、彼女までもが危険に晒される。
だから最後まで、声を出さなかった。
何度も刺された末、誰かがドアを開ける音がした。
その瞬間、犯人は1階の窓から逃げた。
入ってきたのは、パク・ソジュン氏だった。
靴も脱がず、妻の元へと駆け寄った。
「119!早く、お願いだから…!」
震える手で番号を押そうとするも、上手くいかない。
キム・ジヨンさんは血を吐きながら、最後の言葉を残した。
「ソヨンを……お願いね。」
そして、まるで私を見ているかのように首をかしげ、
ゆっくりと唇が動いた。
『お願いね』
その言葉と共に、彼女の手が、力なく落ちた。
絶叫するパク氏は血まみれの彼女の顔を見つめながら――
キャンバスを取り出した。
そうして、最期の瞬間のジヨンさんを描き始めた。
この絵は、
彼女を忘れないための呪いの記録であり――
愛の残滓だった。
今回も読んでいただけたら嬉しいです。楽しんでいただけますように。