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死-1

冬の冷たい空気が、骨の奥まで染み込んでいく。

静まり返った病室。

窓の外では、しんしんと雪が降り続けていた。

誰もいない。

いや、誰も残っていない。

俺は病室のベッドに横たわりながら、ただ外を眺めていた。

この冷たい空間に閉じ込められて、どれくらいの時間が経ったのだろう。

指先が氷のように冷え切っていた。

息をするたびに、胸が焼けるように痛んだ。

もう残された時間はわずかだ。

それを実感しながら、俺はゆっくりと窓に息を吹きかけた。

そして、薄く曇ったガラスにそっと指を伸ばし、文字を書く。

キム・ソヨン。

俺の人生に、初めて——そして最後に訪れた人。

そして今、俺のそばにはいない人。

けれど。

彼女と別れることを選んだのは、俺だった。

自分に残された時間が少ないと知ったとき、俺は彼女から離れることを決めた。

彼女が味わう喪失と悲しみを思うと、恐ろしくなった。

だから、俺は自ら彼女を手放す道を選んだ。

この選択が正しかったのかどうか、もう関係ない。

俺はすぐに死ぬのだから。

死んだ人間に、答えなど必要ない。

そうして俺は彼女を手放し、完全に独りになった。

「バカみたい。」

ふいに、彼女の声が頭の中に響く。

懐かしくて、優しい声。

まぶたを閉じると、彼女が最後に俺に言った言葉が蘇る。

「あなたって、いつもそう。ひとりで決めて、ひとりで背負って、結局ひとりになって。」

そのときの俺は、冷たく背を向けた。

「これは俺が決めたことだ。」

それが、最後の言葉だった。

そして、俺は彼女を手放した。

手放したはずだった。

けれど——

俺は今でも、彼女を忘れられない。

彼女の笑顔も、彼女の温もりも、そっと歌ってくれたあの歌も。

すべてが鮮明に焼き付いている。

彼女を遠ざければ、すべてが楽になると思っていた。

だが、いざ別れてみると、俺は一度も楽になったことがなかった。

せめて、あと一度だけ抱きしめればよかった。

あと一度だけ「愛してる」と伝えればよかった。

俺が彼女を覚えていられる間に。

彼女が俺を忘れないように願える間に——。

だがもう遅い。

俺はすぐに死ぬ。

それだけは、変えようのない現実だ。

「もし……もう一度生きられるなら……」

もし、やり直せるなら。

この絶望的な結末を変えられるなら——。

だが、そんな奇跡は起こらない。

息が苦しくなる。

身体が鉛のように重くなり、視界が暗くなっていく。

そのときだった。

誰かが、俺の手を握った。

温かかった。

まるで、ずっと昔から知っているような温もり。

ぼんやりとした意識の中で、俺は残された力を振り絞り、目を開けた。

そして——彼女を見た。

キム・ソヨンが、俺の手を握っていた。

涙でぐしゃぐしゃになった顔で、俺の名を呼びながら泣いていた。

「……ソヨン?」

違う。これは現実じゃない。

彼女がここにいるはずがない。

けれど、彼女の手の感触が、あまりにもリアルだった。

涙が俺の手の甲に落ちる感触すら、鮮明に伝わってくる。

俺は必死に手を伸ばし、彼女の頬に触れようとした。

けれど、その指先が届く前に——

まぶたが、静かに閉じた。

ピーーーーーーーー。

無機質な電子音が、病室に響き渡る。

花よりも美しかった俺の人生は、

真冬に決して咲かない花のように、

そっと、静かに散っていった。

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