第1章第5節:未知との邂逅 V
トウマたちは新型の機械知性と遭遇した後も、さらに奥へと進んでいった。空が白み始めるにつれ、街の中心部が近いことを示すように高層ビルの数が増えていく。
突然、リョウが手を上げて全員を静止させた。その視線の先に目を向けると、中型の機械知性が無限軌道の駆動音を響かせ、ゆっくりとこちらに近づいているのが見えた。
メインフレームから伸びるアームには多連装の電磁投射砲が装備され、頭部に取り付けられたセンサーが回転しながら周囲を索敵している。
「総員、戦闘態勢!」
トウマが小声で叫ぶ。隊員たちは突然のことに慌てながらも、近くの遮蔽物に身を隠し、武器を構え戦闘に備える。
「……来ないのか。」
トウマは敵がまだ自分たちを発見していないことに気づいた。
中型の機械知性は周りを警戒し、時折立ち止まりながらゆっくりと前進を続けていた。
「よし、ケイ、ハルは後方の地下道入り口から援護射撃。リョウ、ジョージは右手のビルに入って階上から狙え。」
トウマは地勢を利用して有利な態勢で戦闘を始められるように散開するように指示を出す。隊員たちはトウマの指示に従って配置へ移動する。
「ちくしょう、怖くなんかないぞ……」
ケイが汗をぬぐいながら呟いた。
「うう……」
ハルは手が震えるのを懸命に抑え込みながら照準を構える。
リョウとジョージは朽ちた階段をすばやく駆け上がり窓際にたどり着き、ガラスのない窓から銃を突き出し狙いを定める。
他の隊員たちも配置につき、トウマは戦闘開始の合図を出すタイミングを見計らう。
そのとき、中型の機械知性が突如トウマたちとは別の方向へ向かって急加速を始める。
「(なんだ?)」
突然の予期しない敵の行動にトウマは火ぶたを切るべきか逡巡する。
トウマたちから遠ざかる中型の機械知性が、トウマたちとはまったく違う場所に向けて攻撃を開始した。その先には、見たことのない人影が立っていた。
その人影は激しい銃撃の中、的を絞らせないよう左右に高速で駆け抜け徐々に距離を詰める。そして至近の距離に近づいたとき、手に持った刀のような武器を機械知性に振り下ろす。刀が装甲を切り裂き、中の機械を露出させる。
「何が起こってる……!」
「誰だあれは……?」
隊員たちは目の前の光景が信じられず困惑の声を漏らす。
人影は鋭い動きで何度も刀を振り下ろし、中型機械知性のボディを切り裂き、打ち据える。最後に、大きく振りかぶり一閃を放つと、機械知性は崩れ落ちるように倒れこみ、そのまま動かなくなった。人影は動かなくなった鉄塊を見下ろしながらその場にたたずむ。
「あれはなんだ……?」
ケイが目を丸くしながら呟いた。そこに立っていたのは、人間のようにも見えた。
しかし、その人影は、一見、全身機械化したサイボーグと同じに見えるが、トウマたちと違い、頭部までむき出しの機械になっており、その無機質な表情が異様な不気味さを際立たせていた。
「あれは本当に人間なの?こんなところにボクたち以外の人がいるの……?」
ハルもまた目を丸くしながら、驚き、ケイと顔を見合わせた。
一糸まとわぬ姿で佇む様子からは人間らしい温かみがまったく感じられず、まるで人形のような冷たさと無感情さが漂っていた。パーツはジャンク品とは思えないほど真新しく、黒く妖しい光沢を放っており、夜明けの光に照らされる姿は現実感がなく、幻影のように思われた。
「見た目は機械化した人間に見えるけど……一体何なのかしら?もしかして迷い込んだ人なの……?」
マリアは戸惑いを隠せず、困惑した表情でトウマに意見を求めた。
「いや、待て……」
トウマは人影の向こうに別の機械知性の影があるのを認めて眉をひそめる。
人影の隣には見慣れた機械知性の個体が数体配置されていた。敵であるはずの機械知性がすぐ近くにいるにもかかわらず、人影は微動だにせず、むしろそれらを従えているように見えた。