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第1章第4節:未知との邂逅 IV

 薄闇に包まれた廃墟の中を、トウマたちはさらに奥へ進む。時が止まり無音に包まれた街の中での足音はわずかであっても響きわたる。物音を立てないように足元を確認しながら忍び歩く。後に続く者たちは前を進む仲間を見失わないように進んでいた。


 先導していたリョウが突然立ち止まり、手を上げて合図を出した。


 彼は声を出さず、身振りで仲間たちに警告を送る。その視線の先には、見慣れない機械知性(オートマトン)の個体がいた。


「あれは……」


 トウマは驚きを押し殺し、その敵の姿を見極める。


 その姿はトウマたちが探索していたエリアでは見かけない個体で、多脚に支えられた胴体にレーダードームのようなものを背嚢のように背負っており、レーダーを使った偵察に特化した個体だと見て取れた。


「見かけない個体ね。新型……?」


 マリアが小さく囁くように言った。斥候とみられる個体は小型の機械知性(オートマトン)の派生型と思われるが、今までにそのような個体を見たことはなかった。


 斥候はかつての噴水広場とみられる場所で壊れた噴水の近くを徘徊している。壊れた噴水の縁には割れた石材が散乱し、その上には苔がびっしりと生えている。斥候はその周囲をゆっくりと歩きながら、時折背負ったレーダードームを動かし、何かを探しているように見えた。


「見つかる前にここを去りましょう。」


 マリアはトウマに向かって顔を寄せ、小声で提案した。


「近くに他の個体はいないようだけど、あれが斥候なら本隊が近くにいるはずよ。」


 生き残るための物資収集が彼女たちの主目的である以上、極力戦闘はさけるべきだった。


「迂回できる道はあるか?」


 トウマはジョージに問いかけた。


 ジョージは一瞬目を細め、周囲を注意深く見渡したあと、しばし考え込んだ後に言う。


「あの右側の茂みから土手を越えるのはどうだ。死角になって見つからずに通り抜けられるはずだ。」


 ジョージは目を細めながら地形を観察し、最も安全だと思われる進路を示した。


「よし。それでいこう。」


 トウマはその言葉に納得し、ジョージの案を採用する。


 隊員たちは物陰に身を伏せ緊張した表情を浮かべながら、トウマの指示を待っていた。


 トウマは手で合図を送り、隊員たちはひっそりと右に進路を変え茂みに身を隠し前進をする。朽ちた建物の影を利用しながら土手へ向かい乗り越える。土手の向こうは川が流れており、トウマたちは川岸の陰を斥候に気づかれないように注意を払いながら進む。


「こっちだ」


 トウマは低く指示を出し、隊員たちは一列になって移動を続けた。


 彼らは回り道をして死角に入ることで、索敵から外れることに成功した。念のためさらに大きく道を外れ、少し進んだ後に小休止に入った。


 一息つきながら、先ほど見た新型の個体についてそれぞれが考えを巡らせた。


「ジョージ、あの機体について何か思い当たることはないか?」


 トウマは隊の中でもっとも経験豊富なジョージに問いかけた。


「いや、あんな特徴的な個体を見たのは初めてだ。過去に似たタイプの情報を聞いたこともない。」


 ジョージが眉をひそめながら答える。


「小型機械知性(オートマトン)の派生型なんだろうが。新しい型が増えたことなんて、知る限りでは一度もないな。」


 マリアはふと、過去に閲覧したアーカイブの記録を思い起こした。


「人類が機械知性(オートマトン)を使役していた時代には、もっと多様な型が存在していたと聞いたことがあるわ。」


 過去には用途に応じて多数の型が作られた。しかし、反乱以降に汎用化が進み、4種類の型に集約されていった。今ではこの基本型に、アタッチメントの違いでわずかに差が出る程度だった。


「新型じゃなくて、私たちが知らない古い型の機械知性(オートマトン)を、たまたま見つけたってことではないかしら……」


「どんな個体でも関係ないよ、ぼくらは見つからないようにするしかないんだから。」


 ハルが自嘲気味に笑う。


「お宝は見つからないのに、新しい型の機械知性(オートマトン)なんて見つけても意味ないよ!」


 ケイは憤懣やるかたない様子だ。


「確かにな……。これ以上憶測を巡らしても意味はない。」


 トウマは改めて仲間たちに目を向け、ゆっくりと立ち上がった。


「当初のルートに戻るぞ。何か異常があったら、すぐに知らせてくれ。」


 トウマはいつもの調子で指示を出したが、その声にはわずかに喜色が含まれているようにマリアには感じられた。







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